彼に抱かれ愛を弾く 〜ベリが丘恋物語〜
二人の圧に押されかけていると、リビング内に携帯音が響き渡った。季織先生のスマホのようだ。電話に出ると、先ほどまで穏やかだった表情が一瞬にして引き締まった。それはまさに医師の顔だ。

「ドクターヘリの要請があったみたい。私は行くわね。美音ちゃん、ごゆっくり」

「なによ、お姉様も美音ちゃん呼びじゃないの。うふっ、まぁ、いいけど」

「じゃあね、ごきげんよう。あっ、そうだわ、美音ちゃん。あの日、貴女を病院まで運んだのは俊佑よ」

「え⁉︎」

季織先生は軽くウインクを飛ばすと、ひらひらと手を振ってリビングをあとにした。

「運んだって何?何々?どういうこと⁉︎」

沙織さんの食いつきが強すぎる。

確かに、季織先生は私を診察したことは説明していたが、病院までどうやって来たのかは話していなかった。

そうだったのか。誰かに抱きかかえられたようなあの感覚は、もしかしたら俊佑さんだったのかもしれない。そのまま病院まで運んでくれたのか……

「美音ちゃん?ねぇ、美音ちゃん?」

「あっ、はい、すみません」

「説明してくれないかしら?」

私は、港で気分が悪くなったところから順を追って説明した。言わずもがな、なぜ気分が悪くなったのかは話していない。
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