彼に抱かれ愛を弾く 〜ベリが丘恋物語〜
「母が亡くなったのは、私が小学6年生、俊佑が小学5年生の時だった。ちょうど20年前よ。母はね、とても元気な人だったの。病気なんか寄ってこないような……だけど、突然亡くなった。心筋梗塞。病院に運ばれてからあっという間だった。あまりにも突然の出来事に、私は感情が追いついていかなかったの。それは俊佑も同じだったみたい。だけど、日が経つにつれて、深い悲しみに襲われた。
私たち家族ってね、毎月必ず家族揃ってホテルで食事をしていたの。どんなに忙しくても、月に一度は家族揃って食事をする。母が決めたルールよ。私も俊佑も悲しみのどん底で、外で食事なんてする気分ではなかったんだけれども、姉が強引に連れ出したの。母が決めたルールを破ってはいけないって。そして、食事を終えロビーに降りて来た時、ピアノの音色が流れてきたの。母の大好きだった曲よ。その曲が終わって、次も、その次も、母がよく聴いていた曲が流れてきた。その曲を弾いていたのが矢吹さんだったのよ。貴女のお母様も母を想ってくれていたのね。曲を聴いていると、母が隣にいるような気持ちになったわ。それから、私と俊佑は時々ラウンジに来て矢吹さんの演奏を聴くようになったの。私たちが来ると、矢吹さんは必ず母が好きだった曲を弾いてくれた。言葉を交わしたことはないけれど、私たちの気持ちをよくわかってくれているみたいだった。彼女の音色が寂しさを埋めてくれたのよ」
母との間にそんなことがあったとは、夢にも思っていなかった。私がピアノを弾き終えた時、沙織さんの目にうっすらと涙が浮かんでいたのは、この時のことを思い出していたからなのかもしれない。
私たち家族ってね、毎月必ず家族揃ってホテルで食事をしていたの。どんなに忙しくても、月に一度は家族揃って食事をする。母が決めたルールよ。私も俊佑も悲しみのどん底で、外で食事なんてする気分ではなかったんだけれども、姉が強引に連れ出したの。母が決めたルールを破ってはいけないって。そして、食事を終えロビーに降りて来た時、ピアノの音色が流れてきたの。母の大好きだった曲よ。その曲が終わって、次も、その次も、母がよく聴いていた曲が流れてきた。その曲を弾いていたのが矢吹さんだったのよ。貴女のお母様も母を想ってくれていたのね。曲を聴いていると、母が隣にいるような気持ちになったわ。それから、私と俊佑は時々ラウンジに来て矢吹さんの演奏を聴くようになったの。私たちが来ると、矢吹さんは必ず母が好きだった曲を弾いてくれた。言葉を交わしたことはないけれど、私たちの気持ちをよくわかってくれているみたいだった。彼女の音色が寂しさを埋めてくれたのよ」
母との間にそんなことがあったとは、夢にも思っていなかった。私がピアノを弾き終えた時、沙織さんの目にうっすらと涙が浮かんでいたのは、この時のことを思い出していたからなのかもしれない。