彼に抱かれ愛を弾く 〜ベリが丘恋物語〜
「お母さん⁉︎」

沙織さんに続き、私たちに気づいた母が手を振っている。

「どうしてここにいるの?」

「沙織が呼んだんだ」

「沙織さんが?」

「さぁ、行こう」

私たちが近寄ると母の手が私の頬を包んだ。

「美音、素敵な演奏だったわ。お母さん、感動して泣いちゃった。仁君もきっと喜んでる」

「仁君⁉︎」
「仁君⁉︎」

俊佑さんと沙織さん、二人とも怪訝な表情を浮かべている。私の異性関係と勘違いしているに違いない。
今しがた彼が嫉妬深いと話したばかりだ。

「ち、父です!私の父、桃園仁といいます」

取り繕うようなわざとらしい説明になってしまったが、二人の安堵の息が聞こえたような気がした。

「お母さん、どうして? 今は確かヨーロッパだったはずだよね?」

「沙織さんのおかげよ。あなたの演奏を聴けるように、沙織さんが全て段取りをつけてくれたの」

「そうだったのですか?」

「沙織さん、ありがとう。美音の夢も、私の夢も叶えてくれて」

「お役に立てて光栄です」

「ところで美音、お隣の素敵な男性はもしかして……」

「はじめまして、高椿俊佑です」

「ということは……」

母が沙織さんと目配せする。

「改めまして、美音の母、桃園玲子です。仕事の時は矢吹姓を使っています。美音のこと、よろしくお願いしますね」

「お任せください」

「え?ちょっと待って。お母さん、よろしくお願いしますって、私たち」

母の手が私の口を塞ぐ。

「運命、でしょ」

パチンッと音のするようなウインクを私に飛ばした。

あぁ、そうだった。桃園玲子という人は、いきなりプロポーズするような人だった。
側から見ればとんでもない私たちの今の状況も、母にとっては全もってそうではないのだ。
多分、楽しんでいる。
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