Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
「申し訳ない。君のカクテルを台無しにしてしまったな」
極上のイケボに言われて、ようやく息を止めるようにして彼をガン見していた自分に気づき、急いで首を振った。
「いえいえっ、お気になさらず」
オレ様で冷たい第一印象だったけど、意外にも常識人のようだ。
きちんと目を見て謝罪されて、なんだか感動してしまう。
「何を飲んでいたんだ? あぁマスター、彼女にさっきと同じものを」
「え? いえ、あれは別にもうっ」
そもそもマスターのサービスだし……と口を開きかけたのだが、やって来たマスターは「茉莉花ちゃん」と意味ありげにウィンク。
え? 何? 黙ってろってこと?
えぇ、どうしよう……たぶん奢ってくれる気だよね?
戸惑う私の隣で、男性がふとこちらを見て小首を傾げ、一歩二歩と近づいてきた。
そしておもむろにかがみこんで、何かを拾い上げる。
「これは、君のものか?」
「あっ……」
骨ばった長い指先が摘まんでいたのは、紛れもなく私の栞だった。
あの騒動の中で、知らないうちに落としていたらしい。
「はははいっ、私のです!」
こんなボロボロの私物をハリウッドスターのような麗しい方に拾わせてしまうなんて!
アワアワしつつ、両手で捧げ持つように受け取った。
「すみません、ありがとうございます!」
すると、神様の精巧な造形物のようだったその美貌に柔らかな微笑が一瞬過り、ドキッとした。
「ジャスミンか」
え……
「わ、わかるんですか? これがジャスミンだって」
すごい。
ただの白い花で特徴があるわけでもないし、もう古いものだから匂いもしないのに。
「わかるさ。好きな花だ」
超絶イケメンから放たれた“好き”の威力はメガトン級で。
心臓は瞬間沸騰、指先までカッと熱くなり、とっさにのぼせた頬をパタパタ両手で扇いでしまった。
いやあの、もちろんわかってるけどね。
茉莉花と茉莉花は関係ないってことくらい。
でもなんかちょっと、落ち込んだ気分が上がったみたい。
これで月曜日も会社行けるかも――なんて、ゲンキンにも口元が緩む。
当然会話はこれで終わりだろう、と思っていた。