Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
ところが。
ごく自然にその人が隣のスツールへ腰を下ろしてしまい、頭の中にハテナマークがいくつも浮かぶ。
えっと……さっきまで座ってた席と違いますよ?
間違えてるの?
「ん? 誰かと待ち合わせだったのか?」
「いっいえ、そういうわけでは……」
「なら、俺がここで飲んでも構わないだろう?」
間違い、じゃなかったらしい。
えぇええ、なんで??
「一人だとどうしても声をかけられてしまうんだ。今夜はもう、そういうのはごめんでね」
うんざりしたような視線に倣って後ろをチラ見れば、確かに女子のグループやら一人飲みの女性やら、ちらちらこちらを気にしてるっぽい。
彼の言いたいことはなんとなくわかった。
つまり、逆ナンされないように隣で連れのフリをしろってことか。
うーん、事情はわかるし、協力してあげたい気持ちはやまやまだけど……
年齢=彼氏いない歴の私に、男性とサシ飲みなんて高度なひねり技ができるわけもない。こんな美形が相手ならなおさらだ。
たとえ何も話さなくたって、緊張してお酒を味わうどころじゃない。
私はまだ、柊馬のバイト時間が終わるまでここにいなきゃいけないし……。
ごめんなさい、無理です!
「あのぅ、ご自宅で飲まれたらどうですか? お一人になった方が、きっとゆっくり飲めますよ?」
「……は?」
しばしの沈黙。
上目遣いに反応を伺えば、ブラックダイヤのような美しい双眸がぱちくり、と瞬いている。
え、何その……珍獣を見るような目は。
私何か変な事言った?
若干狼狽えていると、「ぷぷっ」と楽し気に誰かが吹き出した。
「茉莉花ちゃんもやるね。こんなイケメン振っちゃうなんて」
カウンターの向こうから、マスターが笑いを堪え堪えブルームーンを出してくれながら言う。
「え、ふふふフルっ!?」