Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

こっそり肩を落とす私をよそに、クロードさんはさっさと荷物をまとめ出す。

「妻を早く休ませたいので、これで失礼します」

彼が学くんへと会釈したので、急いで私も「じゃあね、学くん。会えて嬉しかったよ」と手を振る。
そしてクロードさんに車椅子を押してもらい、食堂の出口へ向かった。

あ、そうだ連絡先!

「学くん、私のID、香ちゃんに聞いてね!」

肩越しに振り返り、なんとかそれだけ言う。
もちろんあの王子スマイルがすぐ返ってくると思った、のに……

学くんは何かを考え込むように眉間にしわを寄せ、難しい顔をして、こっちを、というよりクロードさんの背中を睨んでいる。

え、どうしたんだろう?
ハテナが脳裏に浮かび、何度か瞬く。
すると唐突に。

「ベッカーさん」

学くんが声をあげる。
車椅子が停まった。

「妹から聞いたんですが、日本のご出身だそうですね。失礼ですが、僕たち、どこかでお会いしたことありませんでしたっけ?」


……え?
クロードさんと、学くんが?

疑問を感じる前に、頭上から「人違いでしょう」と笑い交じりの声が降ってくる。

「こんなカオ、どこにでもありふれてますから」

ふふ、やだ。
クロードさんも冗談言うんだな。

吹き出しそうになりつつ、唯一無二ですよそのカオは! とツッコもうとして――けれど、寸前で開きかけた口を噤んだ。

下から見上げた彼の顔は、全く笑ってなかったから。
明らかに、緊張で強張っていた。
冗談で揶揄う余地なんかないほどに。


コツ、コツコツ……

振り返ることなく再び前へ進む彼の歩調に、乱れはない。
車椅子を押す腕も、揺らがない。

でも、どうしてだろう。
完璧に見える彼の余裕に、その時は一筋のヒビが入った様に感じたんだ。


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