Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
マスターってば、今までの会話聞いてた!?
別に私、口説かれてたわけじゃありませんよ!?
ね、そうですよね!?
なんとなくドギマギしつつ、慌てて隣を確かめる、と――
「マスター、俺にもブルームーンを」
ひぃいいっ声低っ! 目が笑ってない!
なんで怒ってるの!?
『俺がここで飲むって言ったら飲むんだよ』
『一般庶民のくせに、つけあがりやがって』
『俺の愛人“その50”にも負ける地味女のくせに』
『俺と一緒に飲めるなんて、ひれ伏して礼を述べてもいいくらいだってことがわからないのか』
頭の中で、イケボがぐわんぐわんと響き渡る。
ひぃいい……怖いぃいい……
その時ちょうど視界の端にこっちを見てる柊馬が映ったので、『お願い助けて!』と必死の念を込める。
姉弟だもんきっと伝わるはず、と信じていたのに――なぜか笑顔でサムズアップされてしまい、ガクッと肩が落ちた。
(後で聞いたら、「『イケメンと一緒に飲めて超ハッピー! 邪魔するんじゃないわよ、邪魔したらどうなるか覚えてなさいよ!』って言ってたんだろ? 伝わったに決まってんじゃん、姉弟だぜ?」とかなんとかニヤニヤ言われたので、家族の絆なんて案外ミシン糸より細いものなのかもしれない……)
「ベッカー様、どうぞ。ブルームーンです」
マスターが(まだ口元をひくひく引きつらせつつ)、彼の前へラベンダー色のカクテルをすっと置く。
ダメだ、どうやら相手はマスターのお知り合いらしい。
つまり私の味方は皆無ってことで、半端ない絶望感に脱力――あれ?
「ベッカーって……すみません、日本人じゃなかったんですか?」