Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
「あっ、これが塾の入口を真正面から撮った写真ですね」
ひねりも何もない、“宮原学習塾”と書かれたプレートの横で、お父さんに抱っこされた私が笑っている。
「家では寒いダジャレばっかり言って母に呆れられてましたけど、授業してる時は別人みたいにとてもカッコよく見えたんですよ」
その姿を記憶から掘り起こしながら私が言うと、「あら、見かけだけじゃなくて、素晴らしい先生だったわよ。評判の塾だったんですから」とおばあちゃんが言い添える。
「それに、人間としても素晴らしい人だった。ご両親を早くに亡くして、苦学した身だからでしょうねえ。フリースクールとして塾の一部を解放したり、子ども食堂みたいなイベントもやっていて。今なら珍しくもないんでしょうけど、それを20年も前にやってたっていうんですから、すごい人でしょう。だから……信じられないんですよ、あんないい人が、どうしてあんなむごい……っ」
言葉を詰まらせたおばあちゃんは、「ちょっと、失礼しますね」と頭を下げ、真っ赤になった目を隠すようにして、バタバタ和室から出ていく。
「………」
その背中を黙って見送り、深呼吸。
潤みそうになる目で天井を睨み、何度か瞬いて落ち着かせた。
ダメだなぁ。
もう涙は枯れたと思っていたのに。
「なぁ茉莉花」
「はっはい?」
ささっと涙をぬぐいながら、さりげなくアルバムを閉じた。
さすがにちょっと、これ以上は涙腺が持ちそうにないと思って。
「答えたくなかったら答えなくていいんだが……」
どこか慎重な調子の口ぶりに、おや、と自然に顔が上がる。
彼の視線は、一心に両親の遺影へ注がれていた。
どうしたんだろう、と私が首を傾げる間もなく、彼が口を開いた。
「……君も、富田譲治が犯人だと思ってるのか?」