Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

事件からまもなく、放火や窃盗の前科を持つ当時21歳の男――富田譲治が容疑者として指名手配された。
うちの敷地内で彼の所持品が見つかったことが、決定打になったらしい。

「調べたならご存知かもしれませんが、富田は地元では結構知られた半グレのリーダー格で、札付きのワル(・・)だったんです。だからあの時は、あいつならやりそうだ、って空気があったのは確かです」

本当に富田が犯人なら、絶対に許せないと思うし、殺してやりたいくらい憎い。
早く犯人だと確定させて、思いっきり憎めたらすっきりするのかとも思う。

ただ、なんだかすっきりしない。
あまりにもスムーズすぎる、っていうか、いろいろ揃いすぎている、っていうか……

「私はその夜、ブザーの音を聞いています。家の玄関のインターフォンとは違う、塾の入口についてたやつです。そして、父は自分で相手を中に招き入れてる。見ず知らずの相手にそんなことするのか疑問があって」

その上、放火の前にお父さんは絞殺されていた。
絞められた時首につく痕(策条痕)や顔のうっ血は火事によって消えてしまったのだけど、検死の結果、頭蓋骨の中にその痕が残っていたとか。

警察では、死因を誤魔化すために放火したんじゃないか、という見方をしていたみたい。

それってなんか、行きずりの放火犯とは違うような気がするんだ。

「それで、富田は父に対して何らかの恨みを抱いていたのでは、という意見もありました。父と富田が言い争っている場面を見たという目撃証言が報道されたことも……ただ真実かどうかはわかりません。2人の接点は、私たち家族ですら思い当たらないんです」

富田の犯罪の現場をお父さんが偶然見てしまったんじゃないかとか、お父さんの生徒に富田がストーカーしてたんじゃないかとか、随分無責任な憶測報道が飛び交ってたことを、うっすら覚えてる。

そして結局、富田は今に至るまで見つかっていない。
海外へ逃げたっていう噂もあるとか……信憑性は怪しいが。


「茉莉花は事件が起きた時、家にいたんだな? お父さんと二人で?」

「はい。本当は私もいない予定だったんです。町内会のキャンプに、お母さんや柊馬と参加する予定だったから。ただ、当日に熱を出してしまって、授業があった父と一緒に留守番することになったんです」

「夜、その時間に何か見たり聞いたりしてないのか? 言い争う声とか……」

「ふふ、クロードさん、刑事さんみたいですね」

「すっすまない。思い出したくないよな」

焦った様に謝ってくれるその人へ、ゆるく首を振る。
思い出したくないわけじゃない。

むしろ、頭からこびりついて離れない。あれだけは。

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