Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
――茉莉花! 逃げなさいっ!! 早く逃げるんだ!!
普段のふざけた口調とはまるで違う、あの――
「声なら、聞きました」
横からひと際強い視線を感じた。
促されるように口を開きかけてから、つと迷う。
この先を続けようとすれば、あの夜の行動について詳細に話さなきゃならない。
学くんにも、香ちゃんや知依ちゃんにも言えなかったこと――というより、その行動の意味に遅まきながら気づいたのが、彼らと別れて、おばあちゃんの家に引っ越してから、だったのだけど。
膝へと視線を落として、ぎゅ、っと両手をきつく握り締める。
話さなくてもいい、いや、話してしまいたい。
相反する2つの気持ちの葛藤が、しばらく続いた。
「茉莉花」
沈黙を破ったのは、クロードさんだった。
「悪かった。何も話さなくていい。茉莉花に辛い思いをさせてまで、知りたいとは思わないから」
ぽんぽん、と私の気持ちを宥めるように大きな手が頭に乗る。
「っ……クロード、さん……」
その緩やかに弧を描く澄んだ双眸からは、私の抱える葛藤を理解してることが伝わってくる。
彼の優しさが胸に染みて、本気で泣きそうになった。
この人に嘘はつきたくない。適当な言葉で誤魔化すこともしたくない。
たとえ、どんな反応が返って来たとしても。
心を決めた私は、ぎゅ、っと一度唇をきつく噛み、それをゆるゆると解いた。
「……クロードさん、外へ出ませんか?」
「外?」
「この辺り、もっと案内したいので」
唐突な話題転換だったのに、チラリと私の視線がおばあちゃんの消えた廊下の方を見たことで意図が通じたらしい。
それ以上何も聞かず「ぜひ」と頷いてくれた。