Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
え、何?
どうしたの?
とりあえず考え事を放棄した私は、野次馬根性を発揮。
周囲のゲストに交じってそちらを注目してしまった。
人の頭ばかりでよく見えないが、総帥とかフレデリック様、って声が聞こえるから、どうやらメインゲストが到着したらしい。
どよめきは次第に歓声へと代わり、拍手もまばらに混じりだす。
やがて――とうとう、彼が現れたようだ。
シャンデリアが震えんばかりの、激しい拍手の嵐が巻き起こった。
入口の方から順に、モーゼの海割れみたく、人垣がざざぁっと左右に分かれてステージまでの道を作っていく。
私もグラスを落とさないように気を付けながら、急いで移動。一体どんな人なんだろう、ってちょっとミーハーな気持ちでその人を待ち受けた。
ゆっくりと見えてきたのは、車椅子に座った男性。
李社長と同じく、彫の深い東南アジア系の顔立ちだ。
フォーマルなスーツはオーダーメイドだろうに、それでも隠すことが難しいくらいの痩身で、髪は真っ白。皮膚にハリはなく、刻まれた皺は深い。周囲の歓待ぶりを冷静に見つめる眼光だけは鋭いものの、失礼かもしれないが60代よりずっと年上に見える。
世界有数の大富豪だっていうから、もっとどっしりというか、ふくよかな人を想像していたのに、と意外に思いながら目線を何気なく後ろへ……
カチャンッ
お盆を取り落としそうになって、グラスが音を立てた。
慌てて抱え直し、素早く会場の端へ移動する。
はぁ、大惨事になるところだった。
バクバクまだ忙しなく叩く胸を押さえて、深呼吸。
それから、たった今見た光景を脳裏へ浮かべた。
総帥の車椅子を押していたのは、女性だった。
薄いクリーム色のワンピースを纏った、黒髪ボブの女性。
年齢は、アラサーくらい。
私は彼女を知っている。
いつだったか渋谷で見かけた、あの助手席の女だったのだ。