Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
気が付くと、いつの間にかリー総帥たちはステージの上へ上がっていた。
<お集まりの皆さま、お待たせいたしました。リーズグループ総帥、フレデリック・リー氏をここ東京で皆様にご紹介できますことを、わたくし、大変光栄に思っております!>
司会をかって出たらしい李偉平社長が大げさなジェスチャーを繰り返しつつ英語で言い、感激の面持ちで車椅子の彼をハグしている。
個人的にペラペラと何かをしゃべりかけてるけど、聞き取れないし中国語かな。
彼女は数歩離れた後方に控え目に立っているものの、それでも清楚な美貌はかなりの目を引く。
あれは誰だ、という囁きがさっきからひっきりなしに聞こえてくる。
<知らないのか? ほら、総帥の盟友で高橋電産の社長・高橋孝蔵の孫娘だよ。確か、雪代とか言ったかな>
<そういえば、噂じゃ総帥は高橋の孫をすごく気に入ってて、彼女を養女にしてその夫に後継者の座を譲るんじゃないかって言われてるらしい>
<え、甥っ子は? ほらあいつ。シェルリーズの社長>
<あれはダメだ。不祥事起こして日本に飛ばされてきたんだから。総帥は実力至上主義の厳しい方だし、資質なしと判断すれば、血縁者でも平気で切り捨てるさ>
<じゃあ、あのお嬢さんの選んだ男性が、次期総帥って可能性もあるわけね?>
<大いにあると思うね>
会話を裏付けるように、ステージ上では総帥が女性――高橋雪代さんを手招きし、何かを耳打ちしている。
李社長と話していた時とは比べ物にならないくらい穏やかな表情で。
気に入ってるのは間違いなさそうだ、と見つめながら、なぜか深まっていくモヤモヤ。
その原因は、きっと……ある仮説を思いついてしまったから。
――クロード!
2週間前の夜、レストランで聞いた電話越しの声。
もし、もしあの電話が彼女だったら?
あの後クロードさんが向かった先が、彼女のところだったら?
一体あんな時間から2人は何をしてたの?
そして、どうしてクロードさんは帰ってこなかったの……?
「大丈夫ですか? 顔色よくないですよ?」
心配して声をかけてくれた仲間へ「ごめんなさい、これ頼んでいいですか」とお盆を託す。
「ちょっと気分が悪くて。休んできていいですか?」
リーダーへの伝言を頼んだ私は、舞台上へもう一度視線をやる勇気はなく、そのまま会場を出た。