Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
「……あの、ちょっといいですか?」
ふと思いつきで遠慮がちに声を出すと、大塚さんは鷹揚に「構いませんよ、どうぞ」と手の平を上に向けた。
「そもそも論ですみません。富田が父を殺した犯人だというのは、間違いないんでしょうか?」
男をお父さんが中へ招き入れていたことへの違和感を思い出して聞く。
「確か週刊誌には、うちの敷地内で富田の私物が発見された、とか……」
「えぇ、ライターがね。自分でデザインした、オーダーメイドの品だそうです。事件後すぐに逃亡したことから考えても、相応の後ろ暗い事情があることは間違いない。それまでの素行の悪さや前科もありましたからね、当時の捜査本部も本ボシは富田で間違いないだろう、と思ってました」
思ってました? 過去形?
なんだかその言い方って……
息を詰めて見守る私をチラリと見て、大塚さんは息を吐きだした。
「富田の遺体が見つかったのは、2週間ほど前の月曜日の朝。新宿のマンションの建設現場で、出勤した作業員が発見しました。死亡推定時刻は前日、つまり日曜日の深夜。死因は、銃弾による失血死」
「じゅ、銃? あの、それじゃあ父の事件とは関係ないんじゃ……」
この日本で銃で撃たれて死ぬなんて、暴力団絡みの事件でもなければ考えられないでしょう?
首を傾げる私に、「そうとも言い切れないんです」と池田さんが横から口を挟んだ。
「そもそも富田が今回日本に戻ってきたのは、母親に会うためらしくて」
「母親?」
「えぇ、末期がんを患っていて、現在ホスピスに入院しています。母親の話では、半年ほど前に本人から電話がかかってきたそうです。そこで、15年前の事件の犯人は自分ではない、自分は嵌められたんだと話していたとか」
急に、息苦しさがせり上がってくる。
嵌められたって、つまり、犯人が別にいるってこと?
「必ず決着をつけて会いに行くから、それまで頑張って生きていてくれと、涙ながらに言っていたそうです」