Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
幽霊のような足取りで、マンションの外へ出る。
首が痛くなるくらい仰いだ先、自宅のあるフロアを地上から見上げれば、次から次へと色鮮やかに日々が蘇ってくる。
寝起きの彼が色っぽ過ぎて直視できなかったこと、
私の手料理を美味しいって褒めてくれた彼の笑顔に見惚れちゃったこと、
お風呂上りで上半身裸の彼に悲鳴あげちゃったこと、
イケボの音読が破壊力すごすぎて、全然勉強に集中できなかったこと……
それからそれから、
添い寝で感じた彼の体温、真っすぐ注がれた眼差し、涙を拭ってくれた指……
愛されてると思ってた。
身体の関係はなかったけど、心は通じ合ってるって。
けど、違ったのかもしれない。
だってこの予想が合っていたなら、彼が私を抱かなかった理由も説明できてしまう。
そんなことで落ち込んでる場合じゃないのに。
今すぐ警察に駆け込まなきゃいけないくらい、もっと重大な秘密を彼は隠しているかもしれないのに。
頭の中は彼との楽しかった日々の思い出でいっぱいで。
彼との関係が変わってしまいそうな予感に、胸が切なくて苦しくてたまらない。
息が、できなくなりそうなほど――
RRRR……
と、そこへいきなり響き渡る軽い電子音。
大きく肩を跳ねさせた私は、どこからだろう、とあたふた自分の身体を見下ろして、遅まきながら自分がカバンを持っていることを知る。
そうだ、買い物に行くところで刑事さんに呼び止められたんだっけ。
中身を探ってスマホを取り出し、ドキリとした。
クロードさんからの着信だったから。
指に力が入らず、なかなか上手くタップできない。
5回目でようやく通話が繋がった、と思ったら――するっとスマホが手から滑り落ちてしまい、「あ」と声が出た。
カシャンッ
急いでその場にしゃがんで拾い上げ、それを耳へと近づける。
「は、はいっクロードさん?」
『どうした? なんだかすごい音が聞こえたが』
いつも通りの低音が聞こえてホッとした。
壊れてはいないみたいだ。
「っ、えと、すみません、ちょっと手が滑って落としてしまって。でも大丈夫ですよ」
上ずった声に彼が気づきませんように、と祈りつつ「どうかしましたか?」と嘯いた。