Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

そして――18時過ぎ。
私の乗ったタクシーがシェルリーズホテルの正面玄関前に停車した。つまり、ファーストタワーの方だ。

本当は彼のオフィスがある隣のセカンドタワーへ行きたかったのに、あちらは専用の車寄せがなくて停めづらいらしい。

仕方ないな。それほど距離があるわけじゃないし、歩いて行こう。

普通の会社員ならそろそろ退勤、という時刻なんだけど……
外出先から直帰、だったらアウトだ。

待ち伏せたからって、会えるとは限らない。
彼が今、どこで暮らしてるかも知らないし……。

ラインか電話か、せめて連絡してから来るべきだったかな。


ジワリと沸く後悔と焦りを試すみたいに、エントランス前は大きなスーツケースを押す観光客で大賑わい。
うんざりと漏れそうになるため息をぐっと堪え、私はゆっくり、セカンドタワーを目指し人の流れを逆行して進み始めた。

来る途中で購入したチョコの小さな袋を、とりあえず潰されないようにとかばいつつ――

「おぉっ」
「うわぁっ」
「えーっ」

ふいに、周囲がざわついた。

何事だろうと首を伸ばして人垣から顔をつき出せば、一台の黒いSUVが映画のワンシーンのごとく滑り込んでくるところだった。

人目を引く大きな車体……クロードさんと同じ車だ。
珍しい車だと思ったけど、そうでもないのかな。
セレブの間では人気の車種なんだろうか。

とりとめもなく考えて見つめていると運転席側のドアが開き、観光客からさらなるどよめきと黄色い声とが沸いた。

現れたのが、周囲を圧倒するほどの美貌の主だったからだ。

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