Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

「クロードさん……ど、どうも、お邪魔、します」

拒否権なんか私にはなく。
さっきとは別の意味でざわつく心臓を押さえつつ、そのゆったりした後部座席へぎくしゃくとした動作で乗り込む。
車はすぐに走り出した。

今まで乗ったことのない車だ。

運転席との間の仕切りはきっちり閉じており、プライバシーが確保されている特別仕様車。CEO()用の社用車かもしれないな――と、好奇心丸出しでキョロキョロ車内を観察する、ふり。

だって、さもないと、窓枠に肘をついてこっちをじっと見つめてる麗しい人へ全神経が奪われて、余計なことを考えてしまいそうになる。
やっぱり足めちゃくちゃ長いな、とか。
この香水の匂い懐かしいな、とか……

あぁやだな。そんなに見ないで。
バレンタインの夜あんな風にお別れしちゃった手前、かなり気まずいのに!

「ちょっと痩せた、か?」

一方彼の方は、こっちの気持ちなんか知らないとばかりに通常運転。
はいはい、動揺してるのは私だけですね。はぁ。

「えぇと、き、気のせいじゃないですか? それより、今日は何かご用でしたか?」

声が裏返らないようお腹に力を入れて、極力平坦な声を出した。

「………」

若干の沈黙の後ようやく隣から差し出されたのは、A4サイズくらいの大判の茶封筒だ。

「中を確認してくれ」
「は、はい」

なんだろう?
わからないまま受けとり、書類を取り出して――瞠目した。

「これって……」

一番上に、“離婚協議書”という文字が見えたから。

こんな大げさなことしなくても、離婚届1枚でいいのに……と言っても、彼クラスになるとそういうわけにもいかないんだろうな。

「ちゃんと中身も読んでサインしろ」

これに同意しないと、離婚できないってことか。

ツキンと胸に走る痛みから意識を逸らすように、私は必死にその書類へ集中した。

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