Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

「クロードさん、今夜はタクシーで帰るって言いましたよね?」

周囲からの注目に居心地の悪さを感じつつ小声で言うと、目の前にやってきた彼の方は悪びれもせず「さぁ、そうだったか?」と首を傾げた。

いやいや、抜群の記憶力のくせにとぼけるのは止めてほしい。

「たまたま近くで打ち合わせしてたんだ。一緒の場所に帰るんだから、別に構わないだろう?」

ムッと視線を尖らせる私を華麗にスルーしてさっと荷物を奪うと、クロードさんは香ちゃんたちへと振り向いた。

「初めまして。茉莉花の夫のクロード・ベッカーです。どうぞお二人とも乗ってください、ご自宅までお送りしますよ」

レアな笑顔は、いとも簡単に相手を籠絡してしまう。
相変わらず、すごい破壊力。

そう、愛想を振りまけないと言いながら、やろうと思えばやれちゃうのだ、この人は。それも完璧に。

彼の笑顔は、私限定というわけじゃない。

「えぇっいいんですかぁっ? ありがとうございます!」
「茉莉花の旦那さん、めっちゃ優しい~」
「茉莉花ちゃん、愛されてるねーっ」

……愛されてる、のかな。

夫としての義務感、とかじゃなくて?

胸の内では、ここ最近モヤモヤし続けてる自虐的な思いが渦巻いていたけれど。
不自然なほど派手に喜ぶ2人の向こうにワナワナと震える安藤さんを見つけて、なんとなく少しだけ留飲を下げた私だった。

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