Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

「まぁ結果として君は死ななかったが、概ね目論み通りになった。君は当日の記憶をほとんど無くして僕は警察に疑われることもなかったし、隠し子探しがそれ以上進むことはなかった。翠蘭(おばあ)様が体調を崩されてしまったからね。あとは、跡取りのいないフレデリック・リーが僕を三顧の礼で迎えにくるのを待っていればいい――あぁ彼に子どもが生まれる可能性は考えなかったよ。奴はゲイだから」

総帥がゲイ?
そういえばそんな噂があるとか、香ちゃんも言ってたっけ、なんて考えたところで、いよいよ演説が佳境に入るらしい。

「そう。あとはただ待つだけだと、思っていたんだけど――」
香坂が口調を重々しく改め、もったいぶった風に首を振った。

「15年前のあの夜、僕の中で何かが変わった。天啓、とでもいうのかな。わかったんだ。待っているだけではいけない。自ら行動を起こすことで、運命はより早く、自分に有利に動かすことができると」

そうして、香坂は自分がどう行動したのか、滔々と語りだした。

現総帥の統率力に疑問を生じさせるため、リーズグループを標的にした犯罪組織――プラゼットを作ったこと、自分の身代わりにと犯人に仕立てた富田に支援者のフリをして近づいて仲間に引き入れたこと。

大学卒業後に日本へ帰化し、素性をカモフラージュした上でリーズグループ傘下である大東物流に入社したこと、これはグループ内部の情報を知りやすくするためであること……。

「この後は、プラゼットの攻撃を僕が(・・)リーズグループのために(・・・)鮮やかに制圧してみせ、落ち目になったフレデリックを引きずり降ろす。そこで初めて僕が何者なのか公表し、晴れて新総帥としてシンガポールへ凱旋帰国――すべては計画通り順調に進んでいたんだ。君が現れるまではね」

忌々しそうな眼差しが、私へと流れてきた。

「うちのオフィス前で、知依と待ち合わせていたことがあっただろう。紹介されて、名前と顔ですぐ思い出したよ。あの時の、塾長の娘だって」

覚えてる。
まだ知依ちゃんが彼と付き合う前。

――副社長、こちらわたしの幼馴染の藤堂香ちゃんと宮原茉莉花ちゃんです。

――茉莉花ちゃん、香ちゃん、こちら香坂明良さん。うちの副社長。とっても優秀なのよ。

言いながら憧れの眼差しで見つめていた彼女を、よく覚えてる。

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