Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

「大丈夫、安心していいよ。すぐには殺さない。なぜ君をここに呼び出したと思う? 君を捕獲するためだよ。君は今や、目撃者という以上に重要な人物だからね」

「じゅ、重要、な?」

「君を連れている限り、SDは僕に手出しができない。頭目であるあの男が、許可しないだろう。最愛の妻を守るために」

最愛の妻? 誰の事?
ツッコみたいのはやまやまだったが、ぐっと堪えた。
些末なことを突っついてる場合じゃない。

「SDのこと、知ってたの?」

「あぁ、富田が命乞いをしながら全部しゃべってくれたよ。それでようやく、ここ最近プラゼットの活動が立て続けに邪魔された謎が解けた。あいつもバカなヤツだ。僕を裏切ったりしなければ、死ななくて済んだのに……さてと、そろそろ出発しようか。フライトの時間だ」

腕時計をチラッと確認した香坂が、座卓から立ち上がった。

「フライト……?」

「プライベートジェットを利用した経験はあるかい? それはそれは快適だよ。五つ星ホテル並みになんでも揃ってるからね。あぁ大丈夫。退屈する暇なんてないくらい、僕がたっぷり可愛がってあげるから」

意味深な視線に足先からゆっくり舐めるように眺められて、全身が鳥肌だった。
「なっ……」

「あいつがのこのこ迎えに来る頃には、君は僕の従順なペットになってるというわけだ。どれほど悔しがるか、楽しみだな。できることなら、あいつの前でヤってやりたいくらいだけど――さぁ、立て」

拳銃が、私の動作を促すようにくいっと上を向いた。

プライベートジェット……ってことは、空港に向かうのよね。
そこまではきっと車で行くから、乗り込む時がたぶん、最後のチャンス。
しっかりしろ!

泣きそうになる自分にきつく言い聞かせ、がくがく震える足へ力を入れながらゆっくり立ち上がる。


「ダメダメ! 行っちゃダメ!」


その時、知依ちゃんがひと際高い声で叫んで、男の手を振り払って飛び出した。

「ひどいよ、わたしだけだって言ったのにっ! お願いだから、もう止めてぇええっ!」

彼女に勢いよく抱きつかれて――私たちは一緒に畳へころんと転がった。

「ち、知依ちゃん、危ないから離れてっ!」
「いやいやっいやあああっ!」

私を守りたいのか、私への嫉妬なのか。
彼女も相当混乱してるみたいで、すごい力でしがみついてくる。

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