Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
どうしよう……私の声なんか聞こえてないみたい。
乱暴なこともできずにオロオロ固まってしまう。
すると、黒スーツの男が舌打ちしながら近づき、彼女の身体を私から引きはがした。そのまま間髪入れずに鳩尾へぐ、っと拳を入れる。
「知依ちゃんっ!」
あっという間に意識を失った彼女の身体は、ずるずる崩れ落ちた。
その身体をひょいっと米俵のように担いで、男は玄関へ向かう。
「知依ちゃんをどうするの!? 彼女は助けてくれるんでしょ!?」
「あぁうるさいな。わかってるよ、僕たちが安全な場所まで移動したらね、解放してやるよ」
さぁ、と再び邪険に顎で指示される。
マズい……。
何が、車に乗り込む時がチャンス、よ。
そうだよ、知依ちゃんがいるんだもの。
私一人逃げれば終わり、じゃない。
そのことにやっと気づいて、こっそり唇を噛む。
「何をしてる? 早く立て!」
もちろん私に選択肢はない。
具体的な作戦も何も思いつかないまま、ほとんど感覚のない足を踏ん張り、1歩2歩とふらふら歩き出した。
ごめんなさい。
クロードさん。
私が勝手なことしたばっかりに……
もう二度と会えないかもしれない、という絶望的な思いに囚われ、ぐらりと視界が揺らいだ、時。
『明良様!』