Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

バサッと何かが落ちる音。
まさか茉莉花がそこにいるとは夢にも思わず、一瞬逢いたい気持ちが強すぎて幻覚を見ているのかと考えてしまった。

――あ、あのっ……おひっお久しぶりです! 私、いえそのっ、ええと、これはっ……。

いや、幻覚じゃない。
本物だ。

それまでユキと交わしていた会話の内容なんか、頭から吹っ飛んでいた。
湧き上がる喜びをなんとか抑えて用向きを尋ねると、おばあ様の病室をVIPルームへ変更したことへの礼だった。

そりゃそうだ、何もないのに俺に会いたがるわけがない。
自虐的に胸の内でつぶやく。
そこへ、彼女がぐいっと小さな袋を差し出してきた。

――それとこれっ、クロードさんに渡そうと思って。
――チョコレートです。今日は、バレンタインでしょう?

全然知らなかった。
その日がバレンタインだったなんて。
何も用意していない自分を密かに責めていると――アメリカでは男性から女性へプレゼントを贈る――彼女がまた口を開く。

――一応まだ夫婦ですし。最初で最後ですけど、贈りたくて。

最初で最後……。
上がった時と同じくらい、気持ちは急速に萎んでいく。

指輪も返され、もう決定的。

――茉莉花は、それでいいのか。
――ならなんで、そんな泣きそうな顔をしてるんだ。

潤んだ瞳を自分本位に解釈して抱きしめてしまったが、所詮無駄な足掻きだった。

――さよならっ。

優しい人だから、一度でも好意を感じた相手に別れを告げるのが辛かったんだろう。

茉莉花が愛する男を見つけたら、潔く身を引く。
最初にそう決めてたんだし、俺の方から、きっぱり離婚を切り出すべきだった。

選択を彼女に丸投げしてしまい、苦しめてしまったかもと悔やんだ。

すまなかった、茉莉花。

駆けていく茉莉花へ胸の内で謝罪しながら、柱にもたれて、もらったチョコレートを口へ放り込む。

甘さよりも苦みが勝った、まるで俺たちの関係のようなチョコが、喉を落ちて行った。

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