Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
「痛っ!」
彼女が俺の胸に体重をかけたせいで、ズキっと痛みが走った。
「すすすすみませんっ! ごめんなさいごめんなさい!!」
飛びのいて平謝りする彼女に、自嘲気味の笑いを向ける。
「いや、大丈夫だ。なんともない」
「お、お膳、返してきますねっ。あと、ついでに売店にもちょっと行ってきますっ」
バタバタとお盆を片づけ、ワゴンを押して部屋を出ていく背中を見送った俺は、静けさの戻った室内で熱のこもった吐息を吐き出した。
傷跡をパジャマの上から撫でながら、このキズをたてに彼女をずっと自分のものとして縛り付けておくことはできないだろうかと考えているズルい自分を自覚する。
傷が痛むのだと言えば、優しい彼女はきっと――……
――これ以上、茉莉花に近づかないで欲しいの。夫は、あなたのせいで殺されたのよ。
あぁわかってる。
わかってる。
彼女はまだ若い。
いろんな可能性がある。
手放すべきだ、彼女を。
自由にしてやるべきなんだ、今すぐ。
彼女には藤堂という王子様だっているのだから。
触れたい。
口づけたい。
抱きたい。
そんな独りよがりの欲望は、彼女のためにはならない。
あぁ早く退院の日が来ればいい。
俺が、この身の内に棲まう獣に負けてしまう前に――……
「あれ、茉莉ちゃんは? いないの?」
残念そうな声で我に返った。
いつの間にか白衣のポケットに両手を突っ込んだ藤堂が、キョロキョロと室内を見渡しながら入って来た。