Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
「あぁそうそう、一応お前には言っておくな」
じゃあな、とドアへと進みかけた足を止め、藤堂が肩越しに振り返る。
「お前の退院、一緒に祝ってやれないかもしれない」
「? 別に祝ってもらわなくてもいいが」
何を言っているんだ、と返すと、藤堂が「ちっがーうっ!!」と叫ぶ。
はぁ?
「日本に! いないかもしれないから」
「日本にいない? どういうことだ」
「応募したんだ。海外で医療援助活動を行ってる国際NPOに」
彼が口にしたのは誰でも名前を聞いたことがある有名なNPOで、医療が届かない紛争地帯などの危険な場所にも赴き、医療で人道支援をしている団体だった。
え、つまり……海外で働くってことか?
茉莉花はどうするつもりなんだ?
「実はずっと迷っててさ。僕はこのまま、勤務医としてキャリアを重ねていくのかなって。そりゃ、最新の機械に囲まれて最新の技術を磨ける環境は素晴らしいと思うよ。けど、本当にそれだけでいいのか……今回の帰国もさ、恩師にいろいろ相談したかったからなんだよね」
軽いパニックに陥りながらも、俺はひとまず話の行方に耳を傾ける。
「あの時畳の上に倒れたお前を目の前にしてさ、助けられないかもしれないって、一瞬思った。いや、正直に言うと、恐怖すら感じた」
「でもちゃんと助けてくれただろう」
「結果論としてはね、そうだよ。ただ、アメリカで同じように銃創で運ばれてきた患者の対応をした時は、恐怖なんて感じなかった」
「患者が知り合いか、そうじゃないかの違いじゃないか?」
「あぁ、そうかもしれない。でも、もう一つの可能性にも気づいちゃったんだよね」
「もう一つの可能性?」
「僕はいつの間にか自分より、自分以外のものを頼りにしてたのかもしれないって。最先端の道具や機械、経験豊富なスタッフ……とか、そんなものをね。気づいて、ゾッとしたよ」