Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
「確かにドン引きしたよ。なんだこいつはって。でも――、嬉しかった。誰も相手にしてくれない大人の中で、あの人だけは、俺を見てくれた。俺を、決して見捨てなかった」
「クロードさん……」
「助けられたら、よかったのに。どうしてあの時、もう一度立ち上がって、火事の中へ……」
語尾が微かに揺れ、海を見つめる宝石みたいな双眸がキラリと煌く。
彼の後悔や苦悩、15年間分の行き場のない気持ちが痛いくらい伝わってきて、たまらずその頭へ手を伸ばし、自分の肩に引き寄せていた。
「クロードさん、泣いていいんですよ?」
私の肩に顔を押し付けられた彼が、喉だけで微かに笑う。
「いや、泣いていいのは茉莉花だろう。家族なんだから」
違う、そうじゃないと私は強く言う。
「家族とか家族じゃないとか、そんなこと関係ないです。大事な人がいなくなって、辛くて悲しくて苦しくて、そういう時は、誰だって泣いていいんです。それはちっともおかしいことじゃない。私はあなたの妻ですよ? 私の前では無理しないでください」
――辛い時は泣いていい。それはちっともおかしいことじゃない。俺は君の夫だろう? 俺の前では無理するな。
誰かの受け売りですけど、と付け加えると、くつくつ、彼が笑うのが伝わって来た。
「っ、く……」
笑い声は、やがて籠った嗚咽に代わり、私の身体へきつく腕が回された。
顔を押し付けられた肩が、熱いもので濡れていく。
「父のことを大切に思ってくださって、ありがとうございます。父もきっと、すごく喜んでると思います」
「まりっ……」
初夏の海風が、優しく頬を撫でていく。
私たちの流した涙、流せなかった涙、15年分のそのすべてを、癒すように。
私たちはしばらく、お互いに腕を回して、抱きしめ合っていた。