Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
奇跡、かぁ。
例えば――アラブの石油王に一目惚れされて、プロポーズされる、とか?
「ははっ、ないない」
言ってて悲しくなってくるから、あり得ない夢を見るのはやめよう。
そこまでのファンタジーは望まない。
ただ、もう少しだけ働きやすい職場で働けて……
それから――そう。
もう一度、学くんに会いたいなぁ……って、再び手の中の栞へと目を落とす。
――茉莉ちゃん。
――君が笑ってくれたら、僕も嬉しいよ。
藤堂学。
友達のお兄さんで、初恋の人で、そして命の恩人。
元気かなぁ、金髪美女とよろしくやってんのかなぁ、なんて。
アメリカで働いている彼のことを考えながら、カクテルグラスを唇へ近づけた時だった。
「待ってってば! どういうことなの? なんで連絡くれないのっ!?」
石畳の床を蹴る2人分の足音――ハイヒールと革靴っぽい――が重なり合うように不規則に響いた。
「ねぇ待ってよ。もう会わないって、別れるってこと!?」
うわ、まさかの修羅場だ……
声はどんどん近づいてきて、耳を塞ぐこともできないままじっと石像みたく固まっていたら、1つ向こうのカウンター席に誰かが腰を下ろす気配がした。
「別れるも別れないも――、」
ざわめきの中なのに、その低音はよく通った。
「そもそも付き合ったつもりなどないが?」