Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
剣呑な内容より、その声に意識が奪われた。
なにこれ、この人、ものすっごくイイ声!
美しい、というのとはちょっと違う。
独特のハスキーな響きが耳に残る感じで、ぞくぞくするくらい官能的なんだ。
「そんなっ、私のこと気に入ったって言ってくれたじゃない!」
「恋愛感情で言ったわけじゃない。勘違いするな」
こんな不愛想で冷たい口調すらセクシーに聞こえてしまうなんて、本職もびっくりのイケボじゃないの。
好奇心に抗えず、私はチラっと視線を横へ飛ばした。
「欲しいものは与えてやったはずだ。もう十分だろう。出て行ってくれ。店に迷惑だ」
けれど、視界のど真ん中に立っている女性が邪魔でその向こうの男性の姿は全然わからない。
カウンターの下、スラックスに包まれたやたら長い足がチラリと見えるだけ。
「ねぇお願い。私、あなたのこと本気でっ――」
「……さっさと出ていけ、と言った。二度言わせるな」
さらに低く、抑揚を失った声が言う。
敵を瞬殺できるんじゃないかってくらい鋭利な言葉のナイフに、部外者の私ですらザザッと鳥肌が立った。
それを感じたのは私だけではなかったようで、店内は一瞬異様な静けさに包まれる。
もちろん直撃された女性は、気圧されたようにたじたじと後ずさり――
「……によ、何よ! 何様なのっ」
次の瞬間――制止する間もなかった――彼女の手が私の目の前のカクテルグラスを掴む。
「あっ」
パシャッ
えぇえええ……私のブルームーン……
こんなドラマみたいなこと、現実にやる人いるんだ……
まるでフィクションのような展開に、開いた口が塞がらない。
あっけにとられている間に、ブチ切れた女性は私の方を振り返ることもなく、そのまま怒りに任せた足取りで店を出て行ってしまった。