Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
幸い、それほど待つこともなくポーンと軽い音がして目的階へ到着したため、思考は一時停止。ホッとした。
エレベーターホールを抜けると、近未来のSFみたいな白い円形の受付カウンターがあり、洗練された美女が2人微笑んでいた。
「こんにちは。リーズファンドアジアへようこそ。ご用件をお伺いいたします」
キラキラオーラに圧倒されてしまいそうになる自分を必死に鼓舞しつつ、私はもつれそうになる口をなんとか開いた。
「あ、あの……こんにちは。クロード・ベッカー社長に会いたい、のですが」
美女の笑顔が、一瞬固まる。
しかしさすがプロ、すぐににこやかに「アポイントはおありですか?」と返してくる。
「はい、連絡はしました。ちょっと届け物を……」
美女たちはさすがに怪訝そうな視線をチラリと交わす。
「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。……宮原茉莉花です」
妻だって堂々と名乗れない自分が恥ずかしかったが、どうしてもここでそれ以上のことは言えなかった。
「少々お待ちください」
と一人がカウンターの中で電話を取り上げる。
「お疲れ様です。社長にお届け物があると、女性の方がいらしています。宮原茉莉花様と……あ、はい。畏まりました」
受話器を戻した彼女は、にっこりと微笑んだ。
「宮原様、秘書の速水がただいま参ります。そちらのソファにかけてお待ちいただけますでしょうか?」
「は、はい……わかりました」
少し離れた場所にソファセットがあるのを認め、私はそちらへ足を向けた。
ビシビシ背後から視線を感じる……当然だろうな。
社長を訪ねてきた正体不明の女。
恰好のゴシップネタにされそう……
『聞いて聞いて! 社長あてに怪しい女が訪ねてきたの!』
『またどこかで社長を見かけて追っかけてきたストーカーじゃないの?』
『社長も罪な人ねぇ。あの美貌だから、仕方ないけど』
『あの麗しい方のお隣に、普通の女が似合うわけないじゃない』
『私たちが社長をお守りしなきゃ!』
『もちろんよ、頑張りましょう!』