Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

……はー、頭が痛い。
ソファへ浅く腰を下ろして、吐息をつく。

そうする間にも、スタッフらしき人が次々、颯爽とそばを通り過ぎていく。
日本人だけじゃないようで、ヨーロッパ系、アフリカ系とか、肌や髪の色も様々。
でもどの人にも共通しているのは、自信にあふれているように見えるってことだった。

私とは大違い。
紙袋がこすれるガサゴソって微かな音すら不格好に感じて、視線が自然と下向きになってしまう。

出かける前に感じていた高揚感は、すっかり消えていた。

私は……彼に、こんな摩天楼の中で働く彼に、相応しい妻だって言えるだろうか。

彼の仕事のことなんか何もわからなくて、何もサポートすることできなくて、ただのお邪魔虫で……


「奥様」

カツカツ、と金属的な音が近づいて来て顔を上げると、ベージュのパンツスーツ姿の女性が見えた。あたふたと急いで立ち上がる。
「ど、どうも、お疲れ様です」

さすが速水さん。上から下まで、このオフィスにしっくり馴染むキャリアウーマンっぽい高級コーデだ。
テンションがさらに下がったところへ、追い打ちをかけるように「大変申し訳ないのですが」と声がした。

「社長は急にランチミーティングの予定が入ってしまいまして。先ほどお出かけになられたところなんです。奥様にはくれぐれも謝っておいてくれと、伝言を承っております。せっかく御足労いただいたのに、すみません」

「え?」

ランチミーティングなんて何も言ってなかったし、メッセージだって朝以降受け取ってないんだけどな……とは思ったものの。
本当ですかなんて疑えるわけもなく、「そうなんですか。わかりました」って作り笑顔をカオに貼り付けておいた。

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