Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
仕方ない。
お弁当は私の昼食と夕食にしよう。
「今日のもきっと、茶色いんでしょうね」
「……は?」
ちゃいろ??
唐突に言われたことの意味がわからず首を傾げれば、速水さんは「あら、ごめんなさい」とわざとらしく片手を口元にあてる。
口調は朗らかだが、その目は笑っていない。
「社長がオフィスで召し上がっているところ、以前チラッと拝見しましたが、茶色のおかずばかりでしたので気になって」
「あ……」
今日も、確かに茶色い。
照り焼きにきんぴらに煮物に……
顔を強張らせる私を見て、赤い唇がにたりと微笑む。
「ねぇ奥様、うちの社長が毎日一体どれだけの金額を動かしているか、ご存知ないんでしょうね? ミシュランシェフにプライベートオーダーすることだって、簡単にできる方なんです。節約なんてする必要はないし、庶民臭い手作り弁当なんて本当に喜んで召し上がってると思います?」
「お、美味しいって、言ってくれます、けど」
「そりゃ、わざわざ作ってくれたのに不味いだなんて言えないでしょう? ビジネスでは容赦ない冷酷とも言える手腕を発揮される方ですけど、根はお優しいんですもの。だいたい、今日みたいにランチミーティングなどで外食されることも多いんです。それなのに、先日は帰ってきてから無理やりお弁当を召し上がっていて、お気の毒でなりませんでした。あの方の妻を名乗るなら、そのあたり、気を使うのが当然だと思いますが?」
ドキリとした。
迷惑、だったかなお弁当。
やっぱり余計な事、だったのかな。
嬉しそうに見えたのは、私の気のせい?
わからない。
わからない……
唇を噛み、狼狽えそうになる自分をなんとか支えた。
「我々としても、社長にはもっと会社の顔として、積極的にメディア露出を目指していただきたいんです。あのご容姿、そして実績もあって、実際多くのオファーもいただいております。けれど今現在取材は一切拒否、どうしてかお判りになります?」