Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
気が付くと、いつの間にか私はビルから出て、見覚えのない住宅街をとぼとぼ歩いていた。
ここ、どこだろう。
どうやら大通りから逸れて、迷ってしまったみたい。
まぁいいか。
そのうちどこかに出るだろう、と構わず歩を進める。
足取りは重い。
速水さんの言葉一つ一つが、まるでナイフみたいに心をえぐってくる。
――私が社長と出会った時、私にはすでに婚約者がおりました。ですから彼も、私を諦めざるを得なかったんですわ。
彼女の言葉が正しい、って可能性はあるだろうか。
だって私たちは、未だにキス止まり。
昨夜なんか一緒のベッドにいたのに、彼は何もしなかった。
良い匂い、なんて一度だって言われたことない。
どうして私と結婚したんだろう、って実際何度も疑問に感じた。
もし、本当に彼女が正しくて、私とか、あの助手席の女は、速水さんと結婚できない寂しさを埋めるための代役だったとしたら……?
感覚のない震える指先で、お弁当箱が入った紙袋の持ち手をギュッと握る。
一緒にお弁当……食べたかったな。
“根は優しい”
そんなことわかってる。
私だってわかってるってば。
あなたよりずっと、私の方が……
ドロドロ渦巻く黒い感情で、心の中が塗りつぶされていく。