三十路アイドルはじめます

25.また、つまらぬ者を切ってしまったようだ。(林太郎視点)

「きらり! じゃあ、またな。面接頑張って」
「きらりさん。僕と結婚して僕の奥さんの仕事をする手もありますよ」
 きらりが面接して仕事につきたいと言っているのに、永久就職を薦めるなんて悪手だ。
 俺は渋谷さんが失言をしたことにほくそ笑んだ。

「雄也さん、しばらくは会えません。今は就職活動を頑張るのもそうですが、『フルーティーズ』の子達の夢を叶えることに全力を注ぎたいと思います。彼女たちを武道館に連れて行きたいんです」
「僕はいくらでも待ちますよ」
「本当に甘えたくなってしまうのでやめてください」

 俺は想像以上に、きらりの気持ちが渋谷さんに傾いていて焦った。
(何? 甘えたくなったら結婚するってこと? きらりは渋谷雄也に内定を出してるのかよ)

 思えば、きらりのバイトする予備校に行ったのは内定を出した子が国試に落ちていたからだった。
 薬剤師として採用したにも関わらず、国試に落ちて薬剤師になれない。
 そんな愚かな人間を採用した人事担当者を左遷してやろうと思った。

 人材とは企業の要だ。
 人を見抜く目がない人間が人事にいては企業にとってマイナスだ。
 案の定、国試に落ちた子は恋愛に夢中なしょうもない子だった。

 受かるべき試験に落ちたのに、やるべきことはできない彼女を批判するときらりに怒られた。

 恋する気持ちばかりは制御できるものではないと彼女は言った。
 彼女は俺が思っているよりも恋愛体質の女なのかもしれない。

 きらりの部屋を出て渋谷さんと2人きりになる。
 渋谷さんが口元に称えていた笑みも消えた。
「俺はきらりのこと本気なんで、譲る気はないですよ」

「譲るも譲らないも、きらりさんは君のこと男として見てないと思うけど」
 渋谷さんは余裕の表情だ。

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