三十路アイドルはじめます
「待ってください。渋谷さんがきらりに会ったのはいつですか? いつプロポーズしたんですか?」
1ヶ月前にきらりは大失恋をしたと言っていた。
俺もその時期に彼女に会って、全力でアピールしてきた。
それなのに、俺は現時点で渋谷雄也に負けている。
「会ったのは彼女の誕生日の9月9日かな。翌日にはプロポーズしたよ。運命だと思ったから」
渋谷さんはそう言い残すと彼を待っていた送迎車に乗り込んだ。
俺がきらりと会ったのは9月10日だ。
ほとんど変わらない時に出会って、毎日のようにアピールしていたのに完全敗北している。
俺はマンションの前に待たせていた送迎車に乗り込んだ。
「会議で緊急議題を提言する予定だから急いでくれ」
運転手が俺の言葉に頷き、車を発進させる。
俺は初めて味合わされた敗北感と共に、きらりに思いを馳せていた。
とても危なっかしくて、単純過ぎる彼女は芸能界じゃやってけないだろう。
一刻も早く彼女にアイドルを辞めさせて、俺の女にしたい。
男として見られていないなら、これから男として心底惚れさせればいいだけの話だ。
俺だって彼女のことを運命だと思っている。
俺の全ての力を使って彼女の心を掴んでやる。
♢♢♢
「『フルーティーズ』をこの会社のイメージキャラクターにする。それから、来年の9月9日にうちがスポンサーになって武道館で『フルーティーズ』のコンサートをやるから」
会議で俺が開口一番に発した言葉に役員たちがざわついた。
「その、社長と噂になった子がいるアイドルグループですよね。失礼ながら起用するほどの人気はないかと⋯⋯武道館でコンサートをやるレベルのグループではないですよ」
「そうだよ。よく分かってるじゃないか。でも、君には未来が見えていない」
俺の言葉に役員たちが次の言葉を食い入るように聞き入る。
彼らは本来なら兄の部下になるはずだった人間だ。
噂の超優秀なバハムート大学帰りの俺が話す言葉を金言のように待っているのだろう。
俺は今からきらりを自分のものにしたいがための計画を、まるで会社の利益を考えてのもののように話す予定だ。
「生まれたての弊社と、ナンバーワンが抜けた『フルーティーズ』」
俺の言葉に役員たちが息を呑むのが分かった。
親会社のファインドラッグこそ有名だが、この会社自体はできたばかりだ。
黒田蜜柑の人気に頼ってきた『フルーティーズ』も彼女が抜けた今生まれたてとも言える。
でも、生まれたての『フルーティーズ』にはきらりがいて、この会社には俺がいる。
「人気、カリスマ、全ては作られるものだ。今、『フルーティーズ』はちょっとした話題じゃないか。一見ネガティブになりかねない噂がポジティブに捉えられている。その力は梨田きらりのもつ力だ」
人気などいくらでも露出で作ることができる。
しかし、好感度というものは作ろうと思っても難しい。
企業に必要なのはポジティブなイメージだ。
きらりは美人なのに妬まれない稀有な存在だ。
それは、彼女の持つ根っからのアホなくらいのピュアさと善性を人が感じ取るからだ。
「でも、社長と噂が出ている以上、社長贔屓して起用されていると思われないでしょうか」
「一流企業のイケメン社長を盲目にさせてしまう程の魅力があると思われれば、それもプラスだろ」
俺が笑いかけると、なぜかおじさん役員は頬を染めた。
また、つまらぬ者を切ってしまったようだ。
会議が終わり、『フルーティーズ』を会社のイメージキャラクターにすることが決定した。
俺の目的はさっさと武道館を満員にさせるようなコンサートを開かせ、きらりにアイドルを辞めさせることだ。
「社長! お考えの深さに感銘を受けました。全ては社長の計算の上でのことだったんですね」
秘書が俺に感銘を受けたことをアピールしてくる。
「梨田きらりは今セキュリティーの甘いマンションに住んでいる。プライバシーも守れるように引越し手続きをするから。うちのイメージモデルに事件でもあったら大変だ」
俺はきらりの引越し先を秘書に渡した。
「早急にお手続き致します! 梨田きらりにコンタクトをとり、引越し作業を完了させて参ります」
芸能人御用達のプライバシーとセキュリティーが守られたマンションだ。
ちなみに、彼女のお隣さんは俺だ。
今日、帰ったらお隣にきらりがいると思うと、俺は俄然絶好調になった。
1ヶ月前にきらりは大失恋をしたと言っていた。
俺もその時期に彼女に会って、全力でアピールしてきた。
それなのに、俺は現時点で渋谷雄也に負けている。
「会ったのは彼女の誕生日の9月9日かな。翌日にはプロポーズしたよ。運命だと思ったから」
渋谷さんはそう言い残すと彼を待っていた送迎車に乗り込んだ。
俺がきらりと会ったのは9月10日だ。
ほとんど変わらない時に出会って、毎日のようにアピールしていたのに完全敗北している。
俺はマンションの前に待たせていた送迎車に乗り込んだ。
「会議で緊急議題を提言する予定だから急いでくれ」
運転手が俺の言葉に頷き、車を発進させる。
俺は初めて味合わされた敗北感と共に、きらりに思いを馳せていた。
とても危なっかしくて、単純過ぎる彼女は芸能界じゃやってけないだろう。
一刻も早く彼女にアイドルを辞めさせて、俺の女にしたい。
男として見られていないなら、これから男として心底惚れさせればいいだけの話だ。
俺だって彼女のことを運命だと思っている。
俺の全ての力を使って彼女の心を掴んでやる。
♢♢♢
「『フルーティーズ』をこの会社のイメージキャラクターにする。それから、来年の9月9日にうちがスポンサーになって武道館で『フルーティーズ』のコンサートをやるから」
会議で俺が開口一番に発した言葉に役員たちがざわついた。
「その、社長と噂になった子がいるアイドルグループですよね。失礼ながら起用するほどの人気はないかと⋯⋯武道館でコンサートをやるレベルのグループではないですよ」
「そうだよ。よく分かってるじゃないか。でも、君には未来が見えていない」
俺の言葉に役員たちが次の言葉を食い入るように聞き入る。
彼らは本来なら兄の部下になるはずだった人間だ。
噂の超優秀なバハムート大学帰りの俺が話す言葉を金言のように待っているのだろう。
俺は今からきらりを自分のものにしたいがための計画を、まるで会社の利益を考えてのもののように話す予定だ。
「生まれたての弊社と、ナンバーワンが抜けた『フルーティーズ』」
俺の言葉に役員たちが息を呑むのが分かった。
親会社のファインドラッグこそ有名だが、この会社自体はできたばかりだ。
黒田蜜柑の人気に頼ってきた『フルーティーズ』も彼女が抜けた今生まれたてとも言える。
でも、生まれたての『フルーティーズ』にはきらりがいて、この会社には俺がいる。
「人気、カリスマ、全ては作られるものだ。今、『フルーティーズ』はちょっとした話題じゃないか。一見ネガティブになりかねない噂がポジティブに捉えられている。その力は梨田きらりのもつ力だ」
人気などいくらでも露出で作ることができる。
しかし、好感度というものは作ろうと思っても難しい。
企業に必要なのはポジティブなイメージだ。
きらりは美人なのに妬まれない稀有な存在だ。
それは、彼女の持つ根っからのアホなくらいのピュアさと善性を人が感じ取るからだ。
「でも、社長と噂が出ている以上、社長贔屓して起用されていると思われないでしょうか」
「一流企業のイケメン社長を盲目にさせてしまう程の魅力があると思われれば、それもプラスだろ」
俺が笑いかけると、なぜかおじさん役員は頬を染めた。
また、つまらぬ者を切ってしまったようだ。
会議が終わり、『フルーティーズ』を会社のイメージキャラクターにすることが決定した。
俺の目的はさっさと武道館を満員にさせるようなコンサートを開かせ、きらりにアイドルを辞めさせることだ。
「社長! お考えの深さに感銘を受けました。全ては社長の計算の上でのことだったんですね」
秘書が俺に感銘を受けたことをアピールしてくる。
「梨田きらりは今セキュリティーの甘いマンションに住んでいる。プライバシーも守れるように引越し手続きをするから。うちのイメージモデルに事件でもあったら大変だ」
俺はきらりの引越し先を秘書に渡した。
「早急にお手続き致します! 梨田きらりにコンタクトをとり、引越し作業を完了させて参ります」
芸能人御用達のプライバシーとセキュリティーが守られたマンションだ。
ちなみに、彼女のお隣さんは俺だ。
今日、帰ったらお隣にきらりがいると思うと、俺は俄然絶好調になった。