三十路アイドルはじめます
僕は彼女にだけは嘘をつきたくないと思えるほど、彼女に惹かれているのだと気がついた。

「雄也さん、演技上手いし面白過ぎです! 偶然ですねって何時も現れるからびっくりしたし、今日も会えるかもって楽しみにもしてたんですよ」
 きらりさんがケラケラ笑いながら言ってくれる言葉に胸が熱くなった。

「偶然じゃなく、これからは約束して会いたいです」
 僕の言葉に、きらりさんが少しの間沈黙する。

「実は来年の9月9日に武道館でコンサートをすることになったんです。それまでは『フルーティーズ』に全力投球しようと思います。雄也さんもコンサートに来てくださいね」

「は、はい。武道館なんて凄いですね。ルナにも教えておきますね」
 来年の9月9日なんて、あと11ヶ月もある。

 今の彼女の言い方だと、11ヶ月間は僕と会う気がないと言うことだ。

 でも、ストイックな彼女の決意を曲げるのは違う気がして、僕は彼女が会いたいと言ってくれるまでは自分からアプローチするのは控えることにした。
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