月ノ蝶、赤縄を結ぶ

 さっきまで撫子と長春が私たちの後ろで護衛していたはずなのに、どうして。



「茜ちゃん!!!」

「動くな」



 鈴木真那は聞いたこともないような鋭い声で天ちゃんを牽制した。

 右手には拳銃がにぎられている。



「何してるの!?天ちゃんに銃を向けないで!」

「お前は黙ってろ。今助けてやるから」



 助ける・・・?私を?

 言葉を上手く呑み込めなくて混乱する。

 誰も一歩も動けない。

 一挙手一投足が生死を決めると、皆が本能的に分かっているからだ。

 緊迫とした空気が場を支配する。


 どこかに突破口がないか思考を巡らせた瞬間───横から爆弾が投げ込まれた。


 建物が揺れ、そのタイミングで鈴木真那が私を抱えて走り出す。

 黒いスーツの男の人もやって来て、天ちゃんの護衛と乱戦を始めたのが見えた。



「天ちゃん!天ちゃん!!撫子!!!長春!!!」



 地面に倒れ込んだ撫子と長春の横を通り過ぎた。
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