《短編集》愛しの旦那様は今日も私を溺愛する
 泣きだしてしまった神楽を優しく抱き締め、

「そうだよね、お迎えしたかったんだよね。ママの為に我慢させちゃってごめんね」

 背中を撫でながら「ごめんね」と神楽に謝った。

 神楽は本当、良い子過ぎる。

 欲しいものは欲しい、したい事はしたいと言って欲しいのに、私や百瀬くんを思って我慢してしまう優しい子。

 だけど、今回ばかりは神楽の願いを叶えてあげたかった。

 こんなに悲しんで涙を流す神楽なんて、滅多な事じゃないのだから。

「……っひっく……、うえーん……、」
「泣かないで……神楽」

 とにかく泣きやませようと必死に宥めているところへ、

「ただいま」

 百瀬くんが帰って来た。

「神楽、パパ、帰って来たよ。とりあえずお出迎えしよっか」
「……っ、うん……」

 小さな手で必死に涙を拭う神楽と共に玄関へと向かうと、

「ワン!!」

 玄関の方から子犬の鳴き声が聞こえてきた。

 それを耳にした神楽はパッと顔を上げ、

「ママ、いま、ワンちゃんの声きこえてきた!」

 少し興奮気味に話し掛けて来る。

「そうだね、早く行ってみよう?」
「うん!」

 そんな神楽を促して百瀬くんの待つ玄関へ辿り着くとそこには、

「あのワンちゃんだ!! なんで!?」

 神楽が迎えたがっていたチワワの子犬を抱いた百瀬くんが私たちを迎えてくれた。


 実は、これが百瀬くんの言っていた作戦で、私は全て知っていた。


 私たちがペットショップへ向かう前に百瀬くんがお店から子犬を引き取り、ひとまず実家に戻っていたのだ。


 百瀬くんの作戦というのは、店から子犬が居なくなったら流石の神楽も悲しんで本心を話してくれるのではないかというもの。


 神楽の本音を知る為とは言え、嘘を吐くのは心苦しかったし、涙を流して泣いている様子を見るのは辛かったけど、どうしても神楽の本音を神楽の口から聞きたかったから、今回ばかりは嘘を吐いて悲しませる形を選んでしまった。

 それでも、子犬が家に来てくれた事を喜ぶ神楽の表情は凄く嬉しそうで安心した。
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