忍ぶれど




 外はうざったらしいくらい暑い。



 ああ、夏なんて大キライ。



 唯一の救いは、風がふいてくる窓際の席だということ。



 でもその風さえも蒸し暑くて、じんわりと背中を汗が伝った。



 セーラー服の胸元辺りの布を摘んで、パタパタと仰ぐほうが気持ち良い。



 高校二年生の夏。



 今年も何も変わらない。何も変哲のない日々に、うんざりしている。



 国語のセンセーのヤマグチ…いや、ミズグチだったかな。



 どっちでもいいけど、そのセンセーの声が、アブラゼミの鳴き声みたいにうるさくてしょうがない。



 暑くて少しガンガンする頭が、より一層痛く感じられる。



『…はあ、馬鹿みたい』



 ボソッ呟いたその一言は、先生の大声によってかき消された。



「何しとる!!赤羽(あかばね)!!」



 …赤羽って、私の名字だっけー…。



 あれ…このクラスに赤羽って他にいたっけ。



「お前だ赤羽…!!」



 バンッと、机を叩かれて見上げると、国語の教科書を片手に、鬼の形相でこちらを見ているセンセーがいた。



 あー…こういう熱血系、嫌い。



『なーに?センセー』



 私も立ちあがって、センセーを見つめ返す。



 頭つるつるでテカってんのウケる。



「何じゃない!話を聞いてるのか!」



『話?きーてますよ』



「じゃあ、俺はさっきなんと言ったか言ってみろ」



 ええ…なんだっけ…。



 ノートも当然ながらとってないし、それをセンセーも分かってて聞いている。



 口元は勝ち誇ったかのように、ニヤケを隠しきれていない。



 私を、見せしめにするつもりだ。



 クラスメートも、コソコソと話しながらこちらを見ていて、助ける気も更々なさそう。



 …所詮、人間はそんなヤツってこと。



『……松尾 芭蕉』



「違うわ!!そもそも今 現代文な!!」



 クスクスと、クラスのヤツらが笑っている。



 あー…うざい。



『あ、ハゲてるの隠すためによく帽子被ってる、センセーに似てる人を答えるのかと思ってましたー。すみませーん』



「なっ…!赤羽!!」



 図星だったのか、カーッと耳まで真っ赤に染まるセンセー。



「いい加減にしろ!!退学にでもなりたいのか!!」



『パワハラにモラハラですか?センセー』



 わなわな と、身体が震えて、口をパクパクしている。



『授業、続けてくださいよ』



 さっきセンセーがしていた、勝ち誇った顔で見る。



「…お、お前みたいなやつを指導する気はない!!やる気がないなら帰れ!!」



 …なーんだ、もっと言い返して来るかと思ったのに。期待外れだった。



『んじゃ、お望み通り失礼しまーす』



「………は?」



 まさか本当に出ていくとは思っていなかったのか、呆気にとられているセンセーを余所に、



 スクバを肩にかけて教室を出た。



 私が出たあとの教室はざわついていて、授業に戻れる雰囲気ではない。



 まあ、それもどーでもいいけど。



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