クズで冷徹な御曹司は、キケンな沼です

「や、めて……ひ、響希っ」

「――」


ピタッ


どうしたら止まってくれるかと思って、ふと思いついた「名前呼び」。

すると無事に、先輩が止まってくれた。


「はぁ、はぁ……っ。笹岡に近づいたのは、謝りますから……っ。学校では、やめてください」

「……なんで?」

「なんでって……。夢中になって、止まらなくなるから……ですっ」

「それって……」


すると先輩は「プッ」と吹きだした。


「最高の褒め言葉だね。むしろ俺は、流されてくれていいんだけど……」


スラッとした瞳が私を捉える。隅々まで見られて、まるで持ち物検査されてるみたい。

だけど顔を赤く染めた私がプルプル震えるのを見て、先輩は「今じゃないか」と目を伏せた。


「震える凪緒に免じて、今日は見逃してあげる。だけど名前呼びは続けること」

「えぇ!?」


さっきは不可抗力で呼んだだけなのに――!
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