追放された調香師の私、ワケあって冷徹な次期魔導士団長のもとで毎日楽しく美味しく働いています。
116.スピネルベリーとリンゴの紅茶を飲みながら
フレイヤは躊躇うようにティーカップを見つめると、振り返ってラグナとアイリックの様子を窺う。
ラグナとアイリックはまだ言い争いを続けており、終わりそうにない。それなら、二人の言い争いが終わるまでメイドの話を聞いていた方が良さそうだ。
「はい、ぜひ聞かせてください」
フレイヤはメイドからティーカップを受け取った。
ティーカップからは、北の大地で実をつける宝石のように透明な果実と聞いたことのある、スピネルベリーの甘酸っぱい香りと、リンゴの柔らかな甘さのある香りがした。
***
オルメキア王国に双子の王女と王子――ラグナとアイリックが誕生した。
当時、ラグナは魔導士の祖であるアストリッドと瓜二つのため、将来有望な魔導士になるのではと家臣たちは期待した。一方で、アイリックが強力な魔力を持っているのではと予想する者もいた。
とはいえまだ二人は魔力測定をする年齢ではなく、貴族たちはどちらにつけば利益を得られるかを考えながら、幼い姉弟たちの成長を見守っていた。
中には、二人の魔法の成長具合を知るために城仕えを買収して情報を得ようとする者もいた。
「そんなこともありましたが、お二人の魔力測定が実施されるまでの五年間は比較的平和でした」
メイドは当時を懐かしむように目を細め、ギャアギャアと喧嘩するラグナとアイリックを見遣る。
「ふふっ、今のお二人を見ていると、当時に戻ったようで微笑ましい気持ちになります」
「ほ、微笑ましい……?」
フレイヤもラグナとアイリックを見てみたが、二人が眦を釣り上げて睨みあっている表情を見ると、少しも同意できなかった。
「私はお二人の乳母の娘でしたので、年が近いこともあり、よく一緒に過ごしていました」
「ええっ?! 王女殿下と王子殿下の乳母の娘ということは……あなたは貴族、なのですか?」
フレイヤがおそるおそる尋ねる。メイドが気さくに話しかけてくれたものだから、もしかすると王女に使える優秀な平民なのかもしれないと思っていたのだ。
しかし王族の乳母を平民が務めた話は聞いた事がない。ということは、王女と王子の乳母を務めた母を持つこのメイドは貴族で、自分はこの貴族に対しても馴れ馴れしく話してしまったのではないか。
メイドは氷のような冷たい表情を崩し、いかにも貴族らしい優雅な微笑みを浮かべた。
「ええ、私はオルメキア王国のオーケルルンド伯爵の次女のリブと申します。……ああ、私も今は身分を隠してここにいるのでお気になさらず。名前で呼んでください」
そんなことを言われても、といったフレイヤのもの言いたげな顔を見て見ぬふりをし、メイドは淡々と話を続ける。
「ラグナ殿下とアイリック殿下が五歳になり、魔力測定をした結果、アイリック殿下が莫大な魔力を持っていることが判明しました。そうして、お二人の派閥が表立って動くようになったのです」
宰相はアイリック――第一王子を支持すると表明した。
オルメキア王国の貴族は、魔導士の始祖の末裔が治める国の誇りがあるため、魔力が強い王を望む傾向がある。とりわけ、古くからある貴族家や年長の者にその傾向があった。
一方で、ラグナはアイリックと比べるとやや魔力が劣るが強い魔力を持っていることに変わりはなく、また魔法の応用に長けているため、彼女がオルメキア王国の魔法の歴史を変えてくれるのではと期待を持って彼女を支持する貴族たちもいた。そのほとんどが地方貴族や新興貴族だった。
「ラグナ殿下もアイリック殿下も、初めはそれぞれの派閥の存在に困惑していながらも、今まで通りに過ごしていました。しかし、大人たちはそんなお二人の仲をゆっくりと引き裂いていったのです」
まず第一王子派の貴族はラグナとアイリックの魔法の教師に自分たちの息のかかった者を送り込んだ。
教師はラグナとアイリックに同じ課題を出すと、わざとアイリックをべた褒めし、ラグナには何度もやり直しをさせた。そうして、「二人のレベルに合った勉強をさせるため」と言い、アイリックには高等な魔法を教え、ラグナにはいつまでたっても初歩の魔法しか教えなかった。
ラグナもアイリックも不自然に思っていたものの、当時の二人は自分たちが大人の陰謀に巻き込まれていることに気づいていなかったため、周囲の人間にこのことを話さなかった。
しかし、ラグナとアイリックと教師へのお茶出しのために偶然授業に居合わせた第一王女派の貴族家出身の宮廷メイドがこの事態を知り、実家を通して国王夫婦に報告したため教師は解任された。
これで騒動がおさまったかと思われたが、今度は第一王女派の貴族たちがアイリックの悪評を流し始めた。
彼らは家庭教師の一件にはアイリックが気づいていたが便乗し、教師と一緒にラグナを虐げていたという噂を流したのだ。
アイリックは教師と一緒にラグナを批判することはなかったが、ラグナを助けたり労わるような言葉をかけることもなく――。
そのためか、噂はラグナの心にアイリックへの猜疑心を植え付けた。
ラグナの変化に気づいたアイリックは弁明しようとしたが、ちょうど貴族たちがラグナとアイリックに近づき、また自分の子どもたちを取り巻きにさせ、ラグナとアイリックが二人でいる時間を奪っていったせいで、二人の間に溝ができてしまった。
そのような派閥同士のいざこざに巻き込まれたラグナとアイリックは、いつしか互いを疎むようになり、王位を巡って争うようになる。
ちょうどそのころ、国王と王妃は第三子――第二王女のイングリッド様の出産に気を取られてしまい、そんな二人の変化にすぐに気づくことができなかった。
顔を合わせれば互いを批判するようになり、相手が王太子の座を得られないよう牽制し合った。
「私の実家は中立派でしたので、お二人の牽制が始まってからはお二人から距離をとるようにしていたのですが――ラグナ殿下の飲む茶に毒が盛られる事件が起きましたので、いつかお二人が派閥争いに巻き込まれて命を落とすのではと心配になり、宮廷メイドとなって陰ながらお二人を守ることにしました」
リブはラグナとアイリックの乳母の娘であるため、それぞれの派閥から専属メイドとして働いてはと勧誘を受けたが、断って中立を貫いた。
おかげで両派閥の情報を密かに仕入れるようになり、ラグナとアイリックの身に危険が降りかかりそうな時は密かに手をまわして二人を守るのだった。
ラグナもアイリックも、リブは昔と変わらず中立の立場でいてくれるとわかっているのか、リブだけには心を開いている。そんな二人を見て、イングリットもまたリブを信頼していた。
「私はイングリット殿下と話し合い、どうにかしてラグナ殿下とアイリック殿下を仲直りさせられないか考えてしました」
せめて王太子が決まるまでには、二人の仲が修復だれるといいのだが――。
そう思っていた矢先、今から五年前にアイリックが病に倒れた。急に、魔力逆流症が発症したのだ。
それから国王と王妃は司祭や魔導士を頼り、あらゆる方法を試させてアイリックの病の治療を試みたが、容態は悪くなる一方だった。
この状態では、長くは生きられないだろう。
そう判断した国王は、ラグナを王太子に決めた。それが、今から四年前のことだった。
幼いころからの悲願だった王太子の座を得たというのに、ラグナの心は晴れなかった。
その時初めて、ラグナは自分がアイリックと昔のように仲の良い姉弟でいたかったのだという、心の底に押し込んでいた望みに気づいたのだ。
気づいたときにはもう、後戻りできない状態になっていた。
そのことに絶望したラグナは眠れない日が続き、気を紛らわせるために夜に寝室からこっそりと抜け出して一人でぼんやりと散歩するようになった。ある日、宰相と第一王子派の貴族たちが数名、庭園の隅で集まっていることに気づいた。
魔法で気配を消し、声を殺して近づいたラグナは、彼らの企てているおぞましい計画を知る。
彼らは錬金術師の間で禁忌とされている人造人間の生成を応用してアイリックの死後、彼を生き返らせようとしている。
そのためにはアイリックの遺体が必要だから、アイリックが亡くなった時は遺体をすり替えられるように替え玉を用意するつもりなのだ。
アイリックを失いたくないが、禁術の材料にされたくない。
ラグナはアイリックを宰相から守るために、極力彼らを引き離す必要があった。
両親に話してみたが取り合ってもらえず、しかし妹のイングリットは宰相のあらゆる行いにうさん臭さを感じており、ラグナの話を信じてくれた。
イングリットは長年、兄と姉の仲違いを憂いていたため、二人が和解するきっかけを作りたいと乗り気で協力してくれたのだ。
それからラグナは、イングリットの提案でリブにも協力を仰いだ。
***
「アイリック殿下を宰相から遠ざけるための計画を立てていた私たちは、偶然にも祝福の調香師――ルアルディ様の噂を耳にしました。そこで、宰相がイルム王国の貴族たちと取引するために国からいない間にアイリック殿下を誘拐して、あなたに引き合わせることにしました。なので、本来なら王太子であるラグナ殿下がエイレーネ王国の建国祭に参加すべきところを、イングリット殿下に一肌脱いでいただき、イングリット殿下が『どうしてもお父様とお母さまと一緒にエイレーネ王国に行きたい! お姉様とお兄様ばかりお父様たちと一緒に外国に行っていてずるい!』と駄々をこねる演技をしていただき、その流れでラグナ殿下が仕方がなくオルメキア王国に留守番することになったのです。もしものことがあっても、重病人のアイリック殿下では対応できませんから」
周囲にはオルメキア王国に残ると言ったが、実際に今のオルメキア王国の王城にいるのは、魔法で姿を変えた偽物だ。もしも魔法が解けてしまえば、宰相たちに計画がバレてしまうかもしれない。
「もしもこの事がバレてしまったら、宰相はラグナ殿下の協力者を牢獄行きにするでしょうね。それでも私は最後までラグナ殿下のお力になりたいです。それが、幼い頃にお二人を助けられなかったことへの、私なりの償いですから」
リブはそう言うと、寂しげに微笑んだ。
***あとがき***
先週は急にお休みしてしまい申し訳ございませんでした…!
体力をつけ、楽しいお話を書いていけるよう引き続き頑張っていきます!!
ラグナとアイリックはまだ言い争いを続けており、終わりそうにない。それなら、二人の言い争いが終わるまでメイドの話を聞いていた方が良さそうだ。
「はい、ぜひ聞かせてください」
フレイヤはメイドからティーカップを受け取った。
ティーカップからは、北の大地で実をつける宝石のように透明な果実と聞いたことのある、スピネルベリーの甘酸っぱい香りと、リンゴの柔らかな甘さのある香りがした。
***
オルメキア王国に双子の王女と王子――ラグナとアイリックが誕生した。
当時、ラグナは魔導士の祖であるアストリッドと瓜二つのため、将来有望な魔導士になるのではと家臣たちは期待した。一方で、アイリックが強力な魔力を持っているのではと予想する者もいた。
とはいえまだ二人は魔力測定をする年齢ではなく、貴族たちはどちらにつけば利益を得られるかを考えながら、幼い姉弟たちの成長を見守っていた。
中には、二人の魔法の成長具合を知るために城仕えを買収して情報を得ようとする者もいた。
「そんなこともありましたが、お二人の魔力測定が実施されるまでの五年間は比較的平和でした」
メイドは当時を懐かしむように目を細め、ギャアギャアと喧嘩するラグナとアイリックを見遣る。
「ふふっ、今のお二人を見ていると、当時に戻ったようで微笑ましい気持ちになります」
「ほ、微笑ましい……?」
フレイヤもラグナとアイリックを見てみたが、二人が眦を釣り上げて睨みあっている表情を見ると、少しも同意できなかった。
「私はお二人の乳母の娘でしたので、年が近いこともあり、よく一緒に過ごしていました」
「ええっ?! 王女殿下と王子殿下の乳母の娘ということは……あなたは貴族、なのですか?」
フレイヤがおそるおそる尋ねる。メイドが気さくに話しかけてくれたものだから、もしかすると王女に使える優秀な平民なのかもしれないと思っていたのだ。
しかし王族の乳母を平民が務めた話は聞いた事がない。ということは、王女と王子の乳母を務めた母を持つこのメイドは貴族で、自分はこの貴族に対しても馴れ馴れしく話してしまったのではないか。
メイドは氷のような冷たい表情を崩し、いかにも貴族らしい優雅な微笑みを浮かべた。
「ええ、私はオルメキア王国のオーケルルンド伯爵の次女のリブと申します。……ああ、私も今は身分を隠してここにいるのでお気になさらず。名前で呼んでください」
そんなことを言われても、といったフレイヤのもの言いたげな顔を見て見ぬふりをし、メイドは淡々と話を続ける。
「ラグナ殿下とアイリック殿下が五歳になり、魔力測定をした結果、アイリック殿下が莫大な魔力を持っていることが判明しました。そうして、お二人の派閥が表立って動くようになったのです」
宰相はアイリック――第一王子を支持すると表明した。
オルメキア王国の貴族は、魔導士の始祖の末裔が治める国の誇りがあるため、魔力が強い王を望む傾向がある。とりわけ、古くからある貴族家や年長の者にその傾向があった。
一方で、ラグナはアイリックと比べるとやや魔力が劣るが強い魔力を持っていることに変わりはなく、また魔法の応用に長けているため、彼女がオルメキア王国の魔法の歴史を変えてくれるのではと期待を持って彼女を支持する貴族たちもいた。そのほとんどが地方貴族や新興貴族だった。
「ラグナ殿下もアイリック殿下も、初めはそれぞれの派閥の存在に困惑していながらも、今まで通りに過ごしていました。しかし、大人たちはそんなお二人の仲をゆっくりと引き裂いていったのです」
まず第一王子派の貴族はラグナとアイリックの魔法の教師に自分たちの息のかかった者を送り込んだ。
教師はラグナとアイリックに同じ課題を出すと、わざとアイリックをべた褒めし、ラグナには何度もやり直しをさせた。そうして、「二人のレベルに合った勉強をさせるため」と言い、アイリックには高等な魔法を教え、ラグナにはいつまでたっても初歩の魔法しか教えなかった。
ラグナもアイリックも不自然に思っていたものの、当時の二人は自分たちが大人の陰謀に巻き込まれていることに気づいていなかったため、周囲の人間にこのことを話さなかった。
しかし、ラグナとアイリックと教師へのお茶出しのために偶然授業に居合わせた第一王女派の貴族家出身の宮廷メイドがこの事態を知り、実家を通して国王夫婦に報告したため教師は解任された。
これで騒動がおさまったかと思われたが、今度は第一王女派の貴族たちがアイリックの悪評を流し始めた。
彼らは家庭教師の一件にはアイリックが気づいていたが便乗し、教師と一緒にラグナを虐げていたという噂を流したのだ。
アイリックは教師と一緒にラグナを批判することはなかったが、ラグナを助けたり労わるような言葉をかけることもなく――。
そのためか、噂はラグナの心にアイリックへの猜疑心を植え付けた。
ラグナの変化に気づいたアイリックは弁明しようとしたが、ちょうど貴族たちがラグナとアイリックに近づき、また自分の子どもたちを取り巻きにさせ、ラグナとアイリックが二人でいる時間を奪っていったせいで、二人の間に溝ができてしまった。
そのような派閥同士のいざこざに巻き込まれたラグナとアイリックは、いつしか互いを疎むようになり、王位を巡って争うようになる。
ちょうどそのころ、国王と王妃は第三子――第二王女のイングリッド様の出産に気を取られてしまい、そんな二人の変化にすぐに気づくことができなかった。
顔を合わせれば互いを批判するようになり、相手が王太子の座を得られないよう牽制し合った。
「私の実家は中立派でしたので、お二人の牽制が始まってからはお二人から距離をとるようにしていたのですが――ラグナ殿下の飲む茶に毒が盛られる事件が起きましたので、いつかお二人が派閥争いに巻き込まれて命を落とすのではと心配になり、宮廷メイドとなって陰ながらお二人を守ることにしました」
リブはラグナとアイリックの乳母の娘であるため、それぞれの派閥から専属メイドとして働いてはと勧誘を受けたが、断って中立を貫いた。
おかげで両派閥の情報を密かに仕入れるようになり、ラグナとアイリックの身に危険が降りかかりそうな時は密かに手をまわして二人を守るのだった。
ラグナもアイリックも、リブは昔と変わらず中立の立場でいてくれるとわかっているのか、リブだけには心を開いている。そんな二人を見て、イングリットもまたリブを信頼していた。
「私はイングリット殿下と話し合い、どうにかしてラグナ殿下とアイリック殿下を仲直りさせられないか考えてしました」
せめて王太子が決まるまでには、二人の仲が修復だれるといいのだが――。
そう思っていた矢先、今から五年前にアイリックが病に倒れた。急に、魔力逆流症が発症したのだ。
それから国王と王妃は司祭や魔導士を頼り、あらゆる方法を試させてアイリックの病の治療を試みたが、容態は悪くなる一方だった。
この状態では、長くは生きられないだろう。
そう判断した国王は、ラグナを王太子に決めた。それが、今から四年前のことだった。
幼いころからの悲願だった王太子の座を得たというのに、ラグナの心は晴れなかった。
その時初めて、ラグナは自分がアイリックと昔のように仲の良い姉弟でいたかったのだという、心の底に押し込んでいた望みに気づいたのだ。
気づいたときにはもう、後戻りできない状態になっていた。
そのことに絶望したラグナは眠れない日が続き、気を紛らわせるために夜に寝室からこっそりと抜け出して一人でぼんやりと散歩するようになった。ある日、宰相と第一王子派の貴族たちが数名、庭園の隅で集まっていることに気づいた。
魔法で気配を消し、声を殺して近づいたラグナは、彼らの企てているおぞましい計画を知る。
彼らは錬金術師の間で禁忌とされている人造人間の生成を応用してアイリックの死後、彼を生き返らせようとしている。
そのためにはアイリックの遺体が必要だから、アイリックが亡くなった時は遺体をすり替えられるように替え玉を用意するつもりなのだ。
アイリックを失いたくないが、禁術の材料にされたくない。
ラグナはアイリックを宰相から守るために、極力彼らを引き離す必要があった。
両親に話してみたが取り合ってもらえず、しかし妹のイングリットは宰相のあらゆる行いにうさん臭さを感じており、ラグナの話を信じてくれた。
イングリットは長年、兄と姉の仲違いを憂いていたため、二人が和解するきっかけを作りたいと乗り気で協力してくれたのだ。
それからラグナは、イングリットの提案でリブにも協力を仰いだ。
***
「アイリック殿下を宰相から遠ざけるための計画を立てていた私たちは、偶然にも祝福の調香師――ルアルディ様の噂を耳にしました。そこで、宰相がイルム王国の貴族たちと取引するために国からいない間にアイリック殿下を誘拐して、あなたに引き合わせることにしました。なので、本来なら王太子であるラグナ殿下がエイレーネ王国の建国祭に参加すべきところを、イングリット殿下に一肌脱いでいただき、イングリット殿下が『どうしてもお父様とお母さまと一緒にエイレーネ王国に行きたい! お姉様とお兄様ばかりお父様たちと一緒に外国に行っていてずるい!』と駄々をこねる演技をしていただき、その流れでラグナ殿下が仕方がなくオルメキア王国に留守番することになったのです。もしものことがあっても、重病人のアイリック殿下では対応できませんから」
周囲にはオルメキア王国に残ると言ったが、実際に今のオルメキア王国の王城にいるのは、魔法で姿を変えた偽物だ。もしも魔法が解けてしまえば、宰相たちに計画がバレてしまうかもしれない。
「もしもこの事がバレてしまったら、宰相はラグナ殿下の協力者を牢獄行きにするでしょうね。それでも私は最後までラグナ殿下のお力になりたいです。それが、幼い頃にお二人を助けられなかったことへの、私なりの償いですから」
リブはそう言うと、寂しげに微笑んだ。
***あとがき***
先週は急にお休みしてしまい申し訳ございませんでした…!
体力をつけ、楽しいお話を書いていけるよう引き続き頑張っていきます!!