唇を隠して,それでも君に恋したい。
「いつか,話すよ敦。だから……和寧とのことは,一旦忘れて欲しい」
そしてどうか,もう2度とそんな気持ちになってほしくない。
僕は決意して,敦の胸にぎゅっと腕を回した。
唇が震える。
言わな,ければ。
自分から言うのは,やっぱり恥ずかしいけど。
「僕が好きなのは,君だけだよ,敦。……好きだ」
力強く,抱きしめて。
言葉を失っている敦を通り過ぎる。
「伊織……!」
後ろから,名前を呼ばれる。
逃げ出した僕を,敦が追いかけてこないことは,僕が一番知っていた。
僕が逃げると決めたのに,絶対に捕まえられる敦がそんなことをするはずがないんだ。
「はっ…はっ…………ふっ!!!」
走って,走って,立ち止まる階段の前。
しゃがみ込んだ僕は,ふぁ,と子供のように押さえていた嗚咽を溢した。
「ふ……ぅ。はぁ………っ」
くそ。
くそ。
なんで。
もっと上手にやりたい。
もっと幸せで居てほしい。
幸せで,幸せで。
涙が止まらない。
せっかく,恋人になれたのに。
僕は何も明かせない。
好きだ,好きだ。
ごめん,敦……