唇を隠して,それでも君に恋したい。
「……ありがと」
しばらくして離れて,ぎょっとする。
「いや……え,どうしよう。ごめん和寧」
水を零した,とは到底言い難い,はっきりとした染み。
「……? おーい。何やってんだお前ら。もう始まるぞ」
あわあわと困惑していると,間の悪いことに和寧の後ろから教師がやってきて,和寧は僕を隠すように抱きしめた。
「あーー……。こいつ,伊織,羽村伊織なんですけど……気分悪いみたいで。次の授業保健室でいいですか」
「え,まじか。その感じ吐くのか? ヤバいのか? 誰か呼んできてやろーか」
「い,いえ,大丈夫,です。すみません」
なんとか自分で言葉を紡ぐ。
どうせもともと必要ないけれど,授業をサボることになってしまった。
どのみちこの顔では戻れないから,助かるけれど。
ちらりと和寧を見る。
その間に先生はそうかと一言頷いて
「黒田,お前は早く来いよ」
と出席簿を突きつけて僕らを通り過ぎた。