唇を隠して,それでも君に恋したい。

観覧車のチョウジョウデ。


「敦!」


こっち,と手を挙げる。

敦は僕を見つけて,綺麗なフォームで僕に駆け寄った。

待ち合わせは現地の入り口になったアーチ前。

少し古いそのアーチには,この施設のオリジナルキャラクターがくっついていて子供受けもするだろうと思う。

うさぎと……コアラ,だっただろうか。

ぱっと見では判断の付かないキャラクターだ。

そんなここは,高校からそう距離のない位置にある遊園地。

僕から誘った初めてのデートだ。

敦の家でゆっくり過ごしたり,少し遠出することはあっても一日中外で遊ぶのは初めてで,僕は少しどきどきしていた。

敦は僕といて,楽しいだろうか。



「じゃあ,行くか。遊園地なんていつぶりだっけ」

「僕も。実は,小さいころに一回だけ。小学校だったか中学校だったか,遠足の日は確か熱を出して参加しなかった」



その一回はまだ,僕が問題を起こしてS・Pだと発覚する前。

両親との数少ない思い出だ。

もう,一緒に連れられてきたのだという事実しか覚えていない。

ただ,こんなに古びてはいなかったはずだ。



「何から乗る? ……絶叫とか,乗れるのか?」



僕の話を聞いて,驚いた敦は気を遣うように首を傾げた。



「さあ? でも,そうだな……。」



僕はそう狭くない園内を見渡して,ひとつ選んで指をさす。



「僕はあれに乗りたい」



僕の指に沿って顔を向けた敦は,それを見てぎょっとした。



「なんで乗れるかも分からないのに一番ハードなのに乗りたがるんだ」



呆れたような言葉に,僕はむっとして敦を覗き込む。

僕がさしたアトラクションは,テレビでしかみたことのないようなジェットコースター。

一番目立っていて,人もたくさんのっているという理由だったが,反対されるとかえって乗りたくなってしまう。
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