唇を隠して,それでも君に恋したい。



「敦,乗れないの?」



そんな風に揺さぶってみても



「乗れるけど。そうじゃないだろ,伊織。一度乗ったら終わるまで下りられないんだぞ。それに気持ち悪くなったら」



敦は一切煽られることなく,冷静に言葉を返してきた。

そんなことわかってるってば。

三太だったらもっと簡単だったのに,と頬を膨らます。



「もっと優しいやつ……あの辺とか」



空中ブランコ・メリーゴーランド……



「やだ。子供が楽しめばそれでいい奴じゃないか。ほら,敦は乗れるんだろ? 行くぞ」



ぐいと右腕を引っ張る。

僕なんかの力で引けるはずもないが,優しい敦は無抵抗で体をゆだねた。



「知らないからな」


耳に届いたその言葉に,僕は口角あげた。
< 111 / 163 >

この作品をシェア

pagetop