唇を隠して,それでも君に恋したい。



「…おり,いい加減休憩にしないか? まだ乗りたいならまた後で付き合うから」

「え?」



気づけば日も高い。

敦が僕をそんな風に止めたのは,4回目のジェットコースターを乗り終えた時だった。

なおもトライしようとする僕に,敦が待ったをかけたのだ。

1回目はさすがに胃が揺れたが,何故かハマってしまいずっとそればかり乗っていた。

怖さもあるけれど,風が気持ちよくて……

1回目で敦の腕をつかんだのがウソのように,僕は楽しんでいた。

何故,あの遠足の日,熱など出してしまったのか。

けれど敦の言うことも一理ある。

僕らはまだ,ジェットコースターにしか乗っていないのだか。

それもそうだなと頷くと,敦はほっとしたように息を吐いた。

そんな顔しなくても……

そうして移ったレストランは,思ったよりも空いていて。

僕らは簡単に昼食にありついた。



「にしてもびっくりした。まさかあんなに何度も乗って平気な人間がいるなんて」

「晴れてよかったよね」



雨だったら僕は二度とあんな体験をすることは無かった事だろう。



「あ。伊織,それ一口ちょうだい」



僕らが昼食のメニューに選んだのはどちらもカレーのセット。

敦はノーマルの一番人気なカレーセットで,僕はチキンカレー。



「いいよ」



当たり前のように,敦が使っているスプーンでまだ一切手を付けていないところを掬う。

それを返さず真っ直ぐ突き出せば,敦は大人しく大口を開けてそれを受け入れた。

無防備かつ大胆なその光景に,僕はほんの少し頬を膨らませる。


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