唇を隠して,それでも君に恋したい。



「ヒ……」

「……伊織,付き合う?」



呼び方が変わったことに気づいて,けれど指摘はしない。

空気を読むのが得意で,決して僕を悪者にしないヒメ。

勝てないなと僕は苦笑して



「……いいよ。卒業までならね」



僕たちは,寂しいだけだ。

僕は,敦に伝えたいだけだ。

僕を追わないで。

忘れて。

傷つかなくなるまで,僕を視界から外して。

君の世界から,追い出して。



「ヒメ」

「ん……?」



僕は君が見てほしい君を,見てあげられる。

君の好きと言う好意を,他の人とは違って,正しくまっすぐに受け取ってあげられる。

だけど君のそれは本当に



「……んーん。やっぱり何でもない」



いいかけたそれは,言ってはいけないと思った。

彼女がそれを恋と呼ぶなら。

僕もそれを受け入れよう。

僕はもう一度,代わりとなる言葉を告げるために口を開いた。

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