唇を隠して,それでも君に恋したい。
「1度飲んだら,もう2度と効かないんだって。向こう50年は世間には公表出来ないけど,少しずつ食品に混ぜて行き渡らせるんだってさ。もう,S·Pと呼ばれる人達が,苦しまなくても済むように」
そんなこと,僕が一番しっている。
僕が目指して作った薬だ。
僕たちは生まれる時点での身体の構造までを変えることはできない。
苦しみが絶えることはない。
だからS·Pとしての制限がなくなったら,きっといつか僕たちの異質さが浮き彫りになる。
肌を晒し合う恋人には,隠し通せない。
どんな言語だろうと文法単語全て簡単に習得してしまうような地頭の良さも,時に人に好かれも憎まれもするだろう。
それでも,僕はただひとつの願いのために。
好きな人とキスをしたいと言う気持ちのためだけに。
他の,約2000人のS·P人口の同じ苦しみが,僕の憎しみによってたたれるように
ここまで頑張ってきた。
「伊織」
甘く甘く,僕を呼んだその声は。
僕のことが好きですきでしょうがない,僕の大好きな男の声。
不安定に揺れたあの時とは違う。
僕だけを見つめた,現実をみているものの声。
「好きだ」
耳を突き抜けるように届いて,僕は思わず泣き笑った。
抱きついたまま,スマホを耳に当てる。