唇を隠して,それでも君に恋したい。

ボクが初めて受ける熱。

ーキーンコーンカーンコーォォォォン

チャイムがなる。

いつもよりゆっくりだったお昼休みも,もうおしまいだ。

僕はお弁当箱を片付けながらほっと息を吐いた。

こんな日常が,ずっと続けばいいのに。

引き出しから進路希望の調査用紙を取り出して,僕はそれを2つ折りにする。

5限の古典が終わると,6限は数学だ。

開始前にやって来て早々,数学係だからと呼ばれ,僕はため息をついた。

せめて事前に言っておくか,始まってからにしてくれたら良かったのに。



「竜之介,お前の羽村と仲良かったよな。手伝ってやれ」



その一言に,身体が止まる。

僕は気にしないようにと心で唱えながら,呼ばれた場所へと向かった。

リューとふたりきりになるのは,あれ以来初めての事だった。



「運が悪かったな」

「いや,別に」




てくてくと会話をして歩く。

リューは振る舞い方の分からない僕と違って,真っ直ぐ僕をみていた。

答えを出すなと言ったのはリューの方だ。

僕も,もっと自然にしていいんだろう。



「お昼,ありがとう。リューは僕にも言わずに沢山助けてくれてたんだなって,ようやく気づけたよ」



これだけは,言っておこうと思っていた。

リューは僕の秘密をダシにして幾らでも僕の信用も接触も得られたのに。

ただひたすら静かに僕を助けてくれていた。

それはとてもすごいことだと思う。

真っ直ぐなリューだから出来ることだ。

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