唇を隠して,それでも君に恋したい。


「おー丁度来たか。これで全部な」



視線だけ寄越したリューと共に職員室へ辿り着いた。

すると出席番号順に直していたと思われる担当が,ドンッとリューの腕に4/5ほどを積む。



「りゅ,リュー」



僕は担当の教師の目にすら細腕で軟弱な男に見えたらしい。

少しの迷いもないその判断に,はたして僕が本当に必要だったかと言う疑問が湧く。



「行くぞ」



僕だって別に,クラス全員分のワークを運ぶくらいわけはない。

リューから負担を回収しようとしたけれど,それに気づいたリューは素早く踵を返して僕を促した。



「ねぇ」



聞いてはいけない気がしていた。

だけどどうしても,それを聞かないままにしておくことは出来なかった。



「リューは……僕のどこが好きだったの」



素直で元気で身体能力もコミュニケーション能力も優れて可愛げのある三太でも。

気配りやでスマートなスズでも……穏やかで優しくて完璧な敦でも。

他の女の子や男の子でもなく。

僕だった理由は,何なんだろう。

たとえ根底にあるのがお互いの抱える秘密や,分かりあえる苦悩の日々なのだとしても……

リューの中にはリューなりの答えがあるんじゃないのか。

だから僕に,告げてしまおうと思えたんじゃないか。

僕は少しも重たくないワークを抱えて,リューを見上げた。

今はもうとっくに鐘もなり,どこもかしこも授業中。

体育で出払っている学年の前を通りながら,僕はリューの言葉を待つ。

リューも同じ様に,一切の躊躇いなく僕を見た。

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