唇を隠して,それでも君に恋したい。



「桜ちゃーん。僕のことすきーー??」



なっと和寧を見上げる。

突然何を言い出すのかと,飯島桜さんも目を丸くしていた。

けれど気を悪くするような態度は見せずに,あははと笑う。



「嫌いじゃないよー」

「ねーー。女の子は僕のこと好きだよね~」



僕ははくはくと口を動かして,お腹の中がひっくり返りそうな衝動を押さえた。

こいつ,意味が分からない……!!!

僕の言葉に対する当て付けに,いきなりこんなことをするなんて正気じゃない。

僕にとって未知との遭遇。

僕は咄嗟に,怖いとまで思った。



「分かったから!! もう僕に話しかけないでよ。和寧がうるさくてさっきの授業も全然聞こえなかったんだから」


本当は分かるくせに,分からないふりをしては僕に話しかけて。

そうすれば僕が無視できないと分かってて,いい迷惑だ。



「あはは。ごめん。一々反応してくれるのが面白くて。結局名前もちゃんと呼んでくれるし」



優しいねーと上から目線でからかわれる。

僕の人生においてこんなに適当でむかつくやつは今まで1人もいなかった。

図太くて図々しくてその上厚かましい。

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