唇を隠して,それでも君に恋したい。
「うるさいっっ」
僕がなけなしの声で叫ぶと,聞き付けたスズが苦笑いで寄ってくる。
「伊織がここまで怒るなんて珍しいな。あっても三太に眉間寄せてるくらいだったのに」
とんとんと自身の眉間をつついて見せるスズに,僕はふーと息をはいた。
そうだ。
そうだ。
こんな事でむきになるなんて僕らしくない。
何をしていたんだろうと,恥ずかしくなった僕は腕を擦る。
「俺も和寧って呼んでいい? 俺は鈴村 亮介。スズでも亮介でも好きに呼んでよ」
「じゃ,亮介で。よろしく」
僕はそんな二人の様子を見てそっと離れた。
「じゃあスズ。あとはよろしく」
僕はこんな意味の分からない転校生のお守りなんてごめんだ。
スズが変わってくれるなら,僕は敦のところにでも行こうと手をはたく。