唇を隠して,それでも君に恋したい。
深い意味はないと分かっていたのに,最近はその手の言葉を聞きすぎて過剰な反応をしてしまった。
女の子なんかはたまに言い合っていたりするけど,僕にとってその言葉は1度も軽かったことはない。
男同士のコミュニティーで口にしたり耳にすることは少なく,僕自身そんな風にべたべたする質じゃないから。
僕には和寧がどうしてあんなに友好的に接してくるのか分からなかった。
接点があるとすれば,ただ1度ぶつかっただけ。
それだけであんな風になるだろうか。
もっと普通に近づいてきてくれたら,僕だって多少は受け入れられたかもしれないのに。
まるで僕が一方的にふてくされているようなスズの態度にも納得が行かない。
「伊織」
「リュー……」
「大丈夫か?」
僕は蛇口を捻ってみずを止める。
わざわざ様子を見に来てくれたリューに,僕はわざとらしく肩を落とした。
「大丈夫じゃないよ。話が通じないんだもん。話してて疲れる……悪いけど少しの間,そっちに行ってもいい? 三太とかも呼んで,ちょっと喋ろ」
こんな風に誰かを突き放すのは好きじゃないけど。
でも言って分からないなら,向こうから近寄れないようにするしかない。
と。
僕はリューに頼む。
リューは
「いいけど」
と短く答えた。